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情報:農業と環境 No.109 (2009年5月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

中南米産植物のアレロパシー活性の現地調査と研究打合せ(2009年1〜2月、メキシコ、ペルー) 報告

2009年1月31日から2月14日にかけて、生物系特定産業技術研究支援センターのイノベーション創出基礎的研究推進事業で実施している「アレロケミカルの探索と新規生理活性物質の開発」に関する国際共同研究を行うため、メキシコ自治大学(メキシコ市)、ペルーのラモリナ農業大学(リマ市)、およびペルーアマゾン研究所(イキトス市)などを訪問しました。

ソチミルコ生態系保存園(写真)

写真1 ソチミルコ生態系保存園内の湖岸に生育する水生植物
(湖岸はアマゾンチドメグサ、湖面はホテイアオイ)

2月1日、メキシコシティー近郊のソチミルコXochimilco生態系保存園を訪問し植生調査を行いました。メキシコシティー一帯は元来、湖と湿地帯で、ソチミルコとは、湿地帯にメキシコ原産のヤナギ科植物を植えて浮き島のような陸地を造成し農業を行う伝統農法を意味し、園地は約100ヘクタールありました。園内の沼にはアフリカ原産のボタンウキクサとブラジル原産のアマゾンチドメグサおよびホテイアオイが冬にもかかわらず繁茂しており、外来植物問題が世界的な問題であることが分かりました。 2月2日、メキシコ自治大学理学部付属生態学研究所のアンナ・ルイサ・アナヤ教授を訪問しました。アナヤ先生は中南米一のアレロパシー研究者で約30年の研究歴があります。2002年にアレロパシー研究室が新設され、植物生態学、植物生理学から天然物有機化学者を含めた総勢20名の大きなグループです。旧交を温めるとともに、お互いの最新の研究情報を交換しました。午後、隣接する附属植物園を訪問し、メキシコ固有のアレロパシー活性の強い植物の調査を行いました。

ラモリナ農大(写真)

写真2 ラモリナ農業大学でMOUに関する説明
同行したセシリア小野さん(右端)が通訳している。

2月4〜5日、ペルーのラモリナ農大を訪問しました。日系人であるルイス・マエゾノ総長と面談し、農環研とのMOU (研究協定) の締結について話し合いました。関連の先生を集めた集会が開かれ、そこで藤井が日本語でプレゼンを行い、同行した日系ペルー人のセシリア小野さんにスペイン語に通訳してもらいました(写真2)。ペルー側からは、アマゾンの伝承薬キャッツクローやペルー産の果実サチャ・インチの成分の研究を紹介していただきました。翌日、ラモリナ農大附属園芸植物栽培施設を訪問し、主任のロベルト・ウガス教授とアレロパシー活性の強いペルー産植物とその成分の研究について打ち合わせました。

巨大な莢(さや)を付けたマメ科植物(写真)

写真3 巨大な(さや)を付けたマメ科植物とレンヒホ先生(薬学者)

2月6日〜7日、国立サンマルコス大学付属自然史博物館を訪問し、植物分類学教室主任のカノー教授と面会し、専門のアンデスの植物について伺いました。植物園には約300種の植物が植えられていたので、そのアレロパシー活性について簡易に調査しました。

2月8〜9日、ペルーの首都リマから飛行機でペルーアマゾンの中心であるイキトス市に移動し、ペルーアマゾン研究所を訪問しました。これまでに連絡のある薬用植物の専門家レンヒホ先生の紹介で、理事のベウゼビリャ教授と会見し共同研究について話しました。研究所内を見学しましたが、DNA増幅装置、四重極GC−MS等の新しい機器を持っておられました。ペルーアマゾン研究所は独立行政法人的な組織で、民間の石油会社などからの寄付があり、国立ラモリナ農大より施設が格段に充実しているようでした。

レンヒホ先生の案内で、研究所から車で30分程度離れた果樹試験園と薬草試験園を訪問し、植生調査を行いました。アマゾン特有の湿気と暑さを体験しました。珍しい植物が多く(写真3)、アレロパシー植物の宝庫と思われますが、試験園内にクズがはびこっており、日本からの侵略植物になるのではないかと危惧(きぐ)されます。この研究所はアマゾンの生物相を保存し利用に関する研究も行っており、2千ヘクタールの試験圃場があるとのことでした。午後、それまでの植生調査でアレロパシー活性が強いと思われる植物について発表し、今後の研究について打ち合わせました。

2月10日、ペルーアマゾン研究所の船でイキトスの港からアマゾン川を約2時間遡上(そじょう)して、タムシヤク村ファサビ農場を訪問しました(写真4)。アマゾン川の本流では河面を漂う水草の7割がボタンウキクサであり、その中でも最も雑草性の強いレタス型でした。ボタンウキクサはアフリカ原産の水草で、世界各地で雑草化していますが、アマゾン川の上流でも大発生していることに驚きました。

アマゾン川(写真)

写真4 ペルーアマゾン研究所の船でアマゾン川をさかのぼりタムシャク村に行く

タムシャク村の農家(写真)

写真5 タムシャク村の農家
 

川沿いの船着き場に到着したあと、さらにオートタクシーと徒歩で1時間かけて目的のタムシャク村に到着しました。訪問したファサビ氏の農場ではアマゾン在来の果樹を4種栽培していましたが、それ以外にアマゾンでも絶滅危惧種となりつつある香木のローズウッドの栽培に力を入れているとのことで、果樹園を訪問しました。また、この村に生えているアマゾン特有の樹木で、その周囲に他の植物が生えない現象を観察しました。

2月11日、再度、イキトス市のペルーアマゾン研究所を訪問し、理事、国際担当者、外来植物の研究者、薬用植物の研究者等とMOUに関する最終打合せを行いました。

2月12日、ペルーのリマからメキシコを経由し、機中泊2日と日付変更線を超えて、暦の上では3日後の15日に帰国しました。

今回の出張の目的は、メキシコやペルーなどの植生の豊富なところで新たなアレロケミカルを探索することで、貴重な経験が得られました。しかし、生態系保存園やアマゾンの奥地にも、侵略性の強い外来植物が侵入して繁殖しており、貴重な遺伝資源の保護と利用に関する研究および外来生物の侵略と対応に関する研究が、生物多様性研究の上で緊急に取り組むべき重要問題であることが再認識できました。

(生物多様性研究領域 藤井義晴・加茂綱嗣)

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