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情報:農業と環境 No.110 (2009年6月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

農業環境技術研究所報告 第26号が刊行された

農業環境技術研究所は、2009年3月に農業環境技術研究所報告 第26号 を刊行しました。

農業環境技術研究所公開ウェブサイト内の 農業環境技術研究所報告のページ (http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/sinfo/publish/bulletin.html) から、掲載論文のPDFファイルをダウンロードできます。

ここでは、この号に掲載された2つの論文について、表題、摘要、おもな目次などを紹介します。

Spatio-temporal Analysis of Agriculture in the Vietnamese Mekong Delta using MODIS Imagery
(MODIS 画像を用いたベトナムメコンデルタ農業の時空間分析)

Toshihiro Sakamoto
(坂本利弘)

日本語摘要

日本の食料自給率(2005年時の供給熱量ベース)は、40%と先進7カ国の中で最も低い。日本は、その食料海外依存度の高さから、世界的な食料価格の変動の影響を最も受け易い国と言える。近年の経済発展に伴う中国の大豆輸入量の増加や世界的なエネルギー政策の転換 (バイオエタノール政策) は、世界の穀物需給バランスを不安定にさせつつあり、世界的な問題となっている。さらに、地球温暖化による農業生産影響、増加し続ける世界人口、鈍化する穀物生産性を考えれば、世界の食料需給バランスが将来にわたって安定し続けると言うことはできないだろう。他方、食料増産・生産性向上を目的とした集約的農業の展開は、発展途上国の農業環境にさらなる負荷を与えるかもしれない。世界の食料生産と密接な関係にある日本は、自国の食料安全保障を議論する前提として、急速に変わり行く世界の農業生産現場やそれを取り巻く農業環境を客観的に理解し、世界の農業環境情報を独自の手法によって収集・整理する必要がある。そこで、筆者は、衛星リモートセンシング技術を活用することによって、地球規模の視点で、時間的・空間的な広がりを持って変わり行く農業生産活動とそれを取り巻く農業環境情報を把握・理解するための時系列衛星データ解析手法の確立を目指すこととした。本研究では、インドシナ半島南端に位置するベトナム・メコンデルタを調査対象領域とした。ベトナムは、タイに次ぐ世界第2位のコメ輸出国であり、その輸出米の9割近くが、ベトナム・メコンデルタで生産されたものである。筆者は、ベトナム・メコンデルタを世界の食料安全保障を考える上で重要な食料生産地帯の一つであると考え、本地域における農業環境及び土地利用パターンの時空間変化を明らかにするための MODIS データを用いた新たな時系列解析手法の開発を行った。

本研究において提案する時系列解析手法は、次の三つである。 1. Wavelet-based Filter for Crop Phenology (WFCP), 2. Wavelet-based Filter for evaluating the spatial distribution of Cropping System (WFCS), 3. Wavelet-based Filter for detecting spatio-temporal changes in Flood Inundation (WFFI). WFCP は、時系列植生指数 (EVI) を平滑化するためにウェーブレット変換手法を利用しており、日本の農業統計データを用いた検証結果から、水稲生育ステージ (田 植日、出穂日、収獲日) を約9−12日 (RMSE) の精度で推定可能であることが示された。WFCP を基に改良された WFCS は、水稲作付パターンの年次把握を可能にし、ベトナムメコンデルタにおける水稲作付時期の空間分布が、上流部において毎年雨期に発生する洪水と沿岸部において乾季に発生する塩水遡上によって特徴づけられていることを明らかにした。WFFI は、時系列水指数 (LSWI) と植生指数 (EVI) から、湛水期間、湛水開始日・湛水終息日を広域把握し、メコン川洪水強度の年次変化を地域スケールで評価することを可能にする。そして、ウェーブレット変換を利用した一連の手法を、2000〜2006年までの MODIS 時系列画像に適用することによって、メコンデルタ上流部の洪水常襲地帯において、冬春米の作付時期が、年次変化する洪水規模に依存していることを明らかにした。また、An Giang 省において、堤防建設 (輪中) や水利施設の建設によって、洪水期における水稲三期作が可能になった地域が、2000〜2005年にかけて拡大していることを明らかにした。本研究で提案した MODIS 時系列画像を利用した時系列解析手法 (WFCP、WFCS、WFFI) によって、ベトナムメコンデルタにおける水稲生産が水資源の量的 (洪水) ・ 質的 (塩水遡上) 変動影響を受ける一方、洪水対策の実施によって、栽培体系を二期作から三期作に変更している地域があることを明らかにし た。

おもな目次

  I. Introduction

 II. A Crop Phenology Detection Method using Time-series MODIS Data

III. Spatio-temporal Distribution of Rice Phenology and Cropping Systems in the Mekong Delta with Special Reference to the Seasonal Water Flow of the Mekong and Bassac Rivers

IV. Detecting Temporal Changes in the extent of Annual Flooding within the Cambodia and the Vietnamese Mekong Delta from MODIS Time-series Imagery

 V. Agro-ecological Interpretation of the Relationship between Annual Flood Inundation and Rice-cropping System in the Vietnamese Mekong Delta based on MODIS Time-series Imagery

VI. General Discussion

Acknowledgements

References

Summary in Japanese

水田土壌及び水稲における化学形態別ヒ素の動態に関する最近の研究動向 (総説)

荒尾知人・加藤英孝・牧野知之・赤羽幾子・鈴木克拓・天知誠吾・山口紀子・高橋嘉夫・石川 覚・川崎 晃・松本真悟・前島勇治・村上政治・門倉雅史・堀田 博

はじめに

農産物からのヒ素摂取量において、我が国では米の寄与が大きいことが明らかになっている。しかし、人への健康影響を検討する上では、総ヒ素の摂取量だけでなく、化学形態別ヒ素の摂取量が重要である。このため、水稲におけるヒ素濃度の低減に向けた栽培管理方法を開発するためには、土壌中及び土壌−水稲間における化学形態別ヒ素の動態を明らかにすることが必要である。本総説は農林水産省農林水産技術会議事務局委託プロジェクト研究 「生産・流通・加工工程における体系的な危害要因の特性解明とリスク低減技術の開発 (農産物におけるヒ素およびカドミウムのリスク低減技術の開発、2008−2012年度)」 における研究課題 「水稲におけるヒ素の体系的なリスク低減技術の開発 (AC-1100)」 を開始するに当たり取りまとめたものである。なお、ヒ素化合物の形態別分析法については別の総説(馬場,2009)に発表した。

おもな目次

  I. はじめに

 II. 水田土壌中のヒ素の化学形態別の存在実態

III. ヒ素吸収の稲品種間差異

IV. 水管理等による水稲のヒ素吸収パターン

 V. 土壌特性に基づく玄米のヒ素汚染リスク予測

引用文献

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