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情報:農業と環境 No.111 (2009年7月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

GMO情報: 除草剤抵抗性雑草 正しく使えば問題なし

遺伝子組換え作物の商業栽培面積 (2008年) は世界25か国で約1億2500万ヘクタール(ha)に達し、そのうち除草剤耐性ダイズが6600万haと全体の53%を占めている(ISAAA,国際アグリバイオ事業団)。トウモロコシ、ワタ、カノーラ(セイヨウナタネ)ではグルホシネート(商品名バスタ、米国では Ignite )耐性の品種も販売されているが、ダイズはグリホサート (ラウンドアップ) 耐性品種だけだ。米国やアルゼンチンではダイズ栽培の約90%で、このグリホサート耐性の組換えダイズ品種が使われているが、近年グリホサートを散布しても枯れない抵抗性雑草の出現が問題になっている。米国ではダイズだけでなくワタ栽培でもグリホサート抵抗性雑草が問題化しており、雑草防除関係の学会誌や農業新聞で報告される頻度も高くなっている。問題となっている雑草種にはオオホナガアオゲイトウ (ヒユ科)、ブタクサ (キク科)、ケナシヒメムカシヨモギ (キク科) など草丈が高く種子を多くつける繁殖力の旺盛(おうせい)なものが多く、作物の成長を阻害するとともに、収穫機械に混入するなどの被害をもたらす。一方で学会誌や農業紙でも 「グリホサート抵抗性雑草が問題になっているのは一部の地域や農家だけ。正しい使い方をすればノープロブレム (問題なし)」 という報告も多く見られる。

抵抗性雑草は問題になっているのか?

米国 Purdue 大学の Kruger らは2005年末に、米国6州 (アイオワ、イリノイ、インディアナ、ミシシッピー、ノースカロライナ、ネブラスカ) でグリホサート耐性のダイズ、トウモロコシ、ワタを栽培している農家 (1128人) を対象に、問題となっている雑草種とその程度について電話による聞き取り調査を行い、Weed Technology 誌に発表した。グリホサート耐性作物の栽培歴は2〜7年と異なっているが、グリホサート耐性作物のみを栽培している農家では、「特に雑草で困っていることはない」 と回答した割合は、25%(ダイズ)、31%(ワタ)、30%(トウモロコシとダイズ)だった。一方、グリホサート耐性作物と他の作物を交互に栽培している農家では、「問題なし」 と答えた割合は28% (ダイズと他作物)、39% (トウモロコシと他作物) だった。電話による聴き取り調査であり、雑草被害の程度も 「増えた、変わらない、減った」 の3段階について農家各自の判断に任せた回答であるが、Kruger らはこの調査結果から 「グリホサート耐性作物のみを栽培している農家でも、雑草問題が深刻化していると答えたのは10%程度だ。しかし、グリホサート耐性トウモロコシと他作物の組合せで問題なしとする回答 (39%) が最も多かったことは、他の除草剤や耕起による雑草防除法も併用するのが望ましいことを示唆している」 と述べている。

このアンケート結果の解釈は難しい。「グリホサート耐性作物だけを栽培してもそれほど抵抗性雑草は問題になっていない」 と楽観視もできるし、「長期的に考えて、グリホサートの連用は避けて他の除草手段と組み合わせて使うべき」 と警鐘を鳴らすこともできる。また、研究者の解釈と現場の反応は違う。デルタファームプレスやアグリニュースなど米国の主要農業新聞で、農業指導員や生産者はダイズ栽培における抵抗性雑草とその対策 (注意点) について以下のように述べている。

抵抗性雑草を出現させない栽培法

高い栽培技術と意識を持った農家では抵抗性雑草はほとんど問題にならない。彼らが採用している対策はおもに4つ。

1.グリホサート耐性作物以外の作物を必ず輪作体系に取り入れる。

2.その際、除草は機械による耕起と発芽前に土壌処理する除草剤を使用する。

3.畝(うね)の幅を狭くし密植によって雑草の初期生長を抑制する。

4.グリホサートを適正濃度で散布する。

しかし、グリホサートだけを茎葉上から散布すればよい、手軽な雑草防除法に慣れた農家、とくにグリホサート以外の防除手段を経験したことのない若手農家には、これらの対策を実施するには知識と技術が必要だと注意を促している。1では、ダイズの後に小麦や飼料作物を栽培する場合は問題ないが、トウモロコシを栽培する場合はグリホサート耐性品種を使わない方が望ましい。トウモロコシは2000年代前半までは除草剤耐性品種を用いず、アトラジン系除草剤 (トウモロコシなどイネ科植物は枯れない) を用いる農家が多かったが、近年グリホサート耐性品種を採用する農家が急増した。理由はグリホサートの方がイネ科雑草を含め多くの雑草種に効果があることと、軽飛行機やヘリコプターで空から除草剤を散布する場合、隣接するトウモロコシとダイズ畑に同じ除草剤を使った方が作業効率が良いからだ (グリホサート耐性でないトウモロコシ品種にダイズ畑に散布したグリホサートが霧状に降りかかるとトウモロコシは枯れてしまう)。2の土壌処理型除草剤はいくつかの種類があるが、すべての雑草種に効果があるわけではないので、いくつかの除草剤を組み合わせて使わなければならない。このタイプの除草剤は乾燥状態では殺草効果が劣るものが多く、散布後に雨が降らないと十分な効果が出ないなど使い方が難しい。

正しい濃度で使用

4番目の散布濃度も重要だ。抵抗性雑草が問題となるのは適正な濃度で散布せず、薄めて使用する場合に多いという。Sammons ら (2007) も Weed Technology 誌でグリホサート耐性作物を長期間持続的に利用するための栽培管理法を提唱している。

(1)殺草作用の異なる除草剤を組み合わせて使うことが教科書では勧められているが、必ずしもベストの対策ではない。果樹園や非農耕地でグリホサートは20年以上使用されているが抵抗性雑草が問題化している例は少ない。

(2)抵抗性雑草の出現を防ぐ基本は雑草 (植物体) をすべて枯らし、種子や根を次世代に残さないこと。

(3)除草剤のラベルに書いてある推奨濃度で散布すれば問題ないが、薄めて低濃度で散布すると枯れずに残る雑草が増え、次世代の繁殖 (種子生産) につながる。これを繰り返すとグリホサートの効かない雑草が短期間に出現しやすい。

Sammons はモンサント社の研究者であるが、彼の主張は自社商品の宣伝ではなく科学的に見ても合理的なものだ。日本ではグリホサートは非農耕地の雑草防除用として、ホームセンターや園芸店で販売されている。ボトルには使用方法として以下のように書かれている (希釈倍率とはメーカーが薦める適正使用濃度)。

適用雑草の種類 散布時期 希釈倍率
一年生雑草生育盛期200倍
多年生雑草、クズ生育盛期〜終期100倍
つる性多年生雑草、ササ生育盛期以降 50倍
スギナ、セイタカアワダチソウ生育盛期15〜20倍

グリホサートは広い殺草範囲を持った除草剤で多くの雑草は100〜200倍液で枯れるが、スギナやセイタカアワダチソウはこの濃度では枯れない。300〜400倍の低濃度なら、一年生雑草でも枯れずに次世代に種子を残す個体が多くなる。薄めて散布すれば除草剤経費を節約できる。しかし、高濃度 (適正濃度) で散布しても枯れない雑草種が多くなると数年後にはデメリットの方が大きくなる。「ご利用は計画的に、使用上の注意を守ってお使いください」 ということだ。

グルホシネート耐性ダイズ登場

今年(2009年)、北米ではバイエル社からグルホシネート耐性の組換えダイズが商品化された。1996年にグリホサート耐性品種が発売されてからモンサント社の独占状態だった除草剤耐性ダイズ品種にようやく競争品種が登場したことになる。バイエル社は殺虫剤・殺菌剤を種子に粉衣した優良品種であるとともに、グリホサート抵抗性雑草対策にも効果があると宣伝している。米国の農業紙や専門誌でも 「グリホサート抵抗性雑草を出現させない栽培法」 とともに、さらなる手段としてグルホシネート耐性ダイズの利用をあげている。しかし、グルホシネートはグリホサートと同じアミノ酸系除草剤だが、その殺草メカニズムや効果は異なる。グリホサートは浸透移行性で茎葉から吸収されると地下部まで移行し根も枯らすが、グルホシネートは接触型で植物全体には移行しない。また雑草が大きくなってから散布すると効果が落ちるなど散布の時期も制限される。「グリホサート耐性ダイズと同じではない。とくに散布のタイミングが重要」 と農業指導員は注意を呼びかけている。2009年の栽培面積は約40万haで、モンサント社のグリホサート耐性品種の2008年の栽培面積 (約2700万ha) と比べてシェアはまだまだ小さい。グリホサート耐性品種と交互に栽培することによって抵抗性雑草の発達を抑制できるのか? ダイズ栽培農家が今後この新品種をどの程度採用していくのか注目される。

今後の選択

グリホサート抵抗性雑草対策として最近バイテクメーカーが力を注いでいるのは、殺草作用の異なる2種類の除草剤に耐性を持つ組換え品種の開発だ。デュポン社はグリホサートとスルホニルウレア系除草剤耐性、ダウ社はグルホシネートとフェノキシ酸系除草剤耐性、モンサント社はグリホサートと芳香族カルボン酸系除草剤(ジカンバ)耐性を持つ組換えダイズ品種の商品化を発表している(Green 2009)。2種類の除草剤を交互に散布すれば、同じ除草剤に暴露(ばくろ)される頻度は半分となり、抵抗性の発達はかなり抑えられるだろう。しかし、このタイプの品種の効果はまだ栽培現場で完全に実証された訳ではない。また、このような品種の種子価格はかなり高価になるはずだ。耕起や土壌処理型除草剤を使用したグリホサート耐性以外の作物との輪作によって、グリホサートの効果をできるだけ長く保つのが、生産者にとっては経済的に見てもっともメリットがあるのではないか。最近は 「除草剤耐性作物の普及によって不耕起栽培が可能になり、農地からの二酸化炭素 (温室効果ガス) の放出量が大幅に抑制された」 というメリットがさかんに強調される。しかし、不耕起栽培によって地球温暖化防止に貢献したとしても、雑草がはびこり、作物の栽培や収穫に悪影響が出るとしたら本末転倒ではないか。

組換え作物のメリットや持続的利用の可能性について否定的な立場を取る団体や研究者は、抵抗性雑草の発達を取りあげ、「組換え作物は長期的にはメリットがない、かえって除草剤の使用量を増やすだけ」 と主張する。このような懸念もあり、今回紹介した論文を含め抵抗性雑草発現の過程については多くの調査が行われている。米国、カナダ、アルゼンチンの報告では、他の除草手段を使わずグリホサートだけを使用していると4〜5年目から、抵抗性雑草の出現や優先する雑草相の変化が確認されている。農業現場で深刻な問題となるのはもう少し後になってからだ。言い換えれば、最初の4、5年はグリホサートだけを連用しても大きな不都合は生じない。しかし長期間メリットを享受し続けるためには、1つの除草手段に偏らない栽培管理が必要になる。日本ではまだ遺伝子組換え技術を用いた除草剤耐性作物は導入されていないが、海外での多くの研究は、どのような使い方をすれば抵抗性雑草が出現せず、除草剤耐性品種を効果的に使用し続けることができるのかを教えてくれる。貴重な情報である。

おもな参考情報

Sammons R.D. et al. (2007) Sustainability and stewardship of glyphosate and glyphosate-resistant crops. Weed Technology 21: 347-354.(グリホサートとグリホサート耐性作物の持続的利用と管理、モンサント社の抵抗性雑草管理対策)
http://www.bioone.org/doi/abs/10.1614/WT-04-150.1 (リンク先の URL を変更しました。2012年1月)

Kruger G.R. et al. (2009) U.S. grower views on problematic weeds and changes in weed pressure in Glyphosate-resistant corn, cotton, and soybean cropping systems. Weed Technology 23: 162-166. (グリホサート耐性組換えトウモロコシ、ワタ、ダイズ栽培体系において問題となっている雑草種と雑草被害圧の変化に関する米国生産者の意見、電話聴き取り調査)
http://www.bioone.org/doi/abs/10.1614/WT-08-040.1 (リンク先の URL を変更しました。2012年1月)

Green J.M. (2009) Evolution of Glyphosate-resistant crop technology. Weed Science 57: 108-117. (グリホサート耐性作物技術の進化)

Puricelli E. & Tuesca D. (2005) Weed density and diversity under glyphosate-resistant crop sequences. Crop Protection 24: 533-542. (グリホサート耐性作物栽培における雑草密度と多様性:アルゼンチンでの5年間の検証)

Beckie H.J. et al. (2006) A decade of herbicide-resistant crops in Canada. Canadian Journal of Plant Science 86: 1243-1264. (カナダにおける除草剤耐性作物の10年)

情報:農業と環境90号 GMO情報: 除草剤耐性作物 商業栽培10年を振り返る
http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/magazine/090/mgzn09008.html

(生物多様性研究領域 白井洋一)

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