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情報:農業と環境 No.112 (2009年8月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

本の紹介 272: 地球環境46億年の大変動史、 田近英一 著、 化学同人(2009年5月) ISBN:978-4-7598-1324-1

地球環境の本質は 「変動」 であると著者はいう。温暖化の問題から地球環境がこれまでになく注目されている。しかし温暖化は単に温度上昇に留(とど)まらず、地球環境にさまざまな変化が現れることが懸念されているが、実のところ温暖化の先に何が起こるのか、まだよくわかっていない。地球は奇跡の惑星と呼ばれており、安定して多くの生命を支えているように見えるが、過去には極端な温暖化と寒冷化を繰り返してきた。そうした過去から現在への地球環境の変動史を知ることが、地球環境の将来を知る上で役に立つ可能性があると説明する。

他の惑星と比較したとき、地球が温暖湿潤で安定した環境なのは、大気組成と水の存在が関連している。しかし、地球の大気と海洋の起源については、まだよくわかっていない。地球史初期の数億年は、隕石(いんせき)の衝突頻度が非常に高かった時代と考えられており、全海洋蒸発が数回程度生じたと推定されている。だとしたら、生命も誕生と絶滅を繰り返したのかも知れない。気候変化にはさまざまなフィードバックシステムが働いているが、気候システムが温暖化すると風化作用が促進され、炭酸塩として沈殿するため二酸化炭素の消費が増加し、大気中の二酸化炭素濃度が低下、その結果温室効果も低下するという、負のフィードバックが働く。これはウォーカー・フィードバックと呼ばれている。こうしたさまざまな要因が絡み合い、地球システムは複雑である。

30億年以上前の海水温は60℃から120℃もあり、14億年前の二酸化炭素濃度は現在の10〜200倍程度であった。過去の地球環境が温暖のまま維持されたのは高い二酸化炭素の影響と考えられているが、一方、22億年以上前に温暖化に寄与したのは、現在の10倍以上放出されていたメタンの寄与であるという説もある。当時はメタン菌が地球上の炭素代謝の主役であった。一方、大気中の二酸化炭素濃度の急激な増加は24.5億〜20.6億年前に生じ、シアノバクテリアの光合成作用によると考えられているが、それが一方的な増加だったのか、変動しながらの増加だったのか、わかっていないという。

地球システムの複雑さには、驚くばかりである。地球の誕生以来、地球環境は変動し続けており、熱い地球と凍り付いた地球を繰り返してきた。現在の地球は地球史的に見ると寒冷な氷河時代であるが、氷河時代の中では温暖な間氷期として位置づけられる。気候は、最近1万年間は安定していたが、それは地球の歴史から見るとむしろ例外であり、これからの同じ状態が長期的に継続することはないだろうという。そして過去1万年間に及ぶ安定した気候条件が、人類文明を生み出すことのできた大きな要因であったであろう。人類の歴史は短いが故に、過去の地球から未来を学ぶことの重要性を著者は説く。

地球環境問題や生命の進化、さらには人類の今後を考える上で、おすすめしたい一冊である。

目次

まえがき

第1章 生命の存在する惑星

1 地球のどこが特別なのか?

2 温室効果とはなにか?

3 海の存在

第2章 大気と海洋の起源

1 海の水はなぜ塩辛いのか?

2 大気や海洋はいつどうやってできたのか?

3 初期地球の環境

第3章 地球環境の安定化の要因はなにか

1 暗い太陽のパラドックス

2 炭素循環とはなにか

3 地球環境はなぜ安定なのか

4 二酸化炭素濃度の変遷

5 メタンの役割

第4章 生命の誕生と酸素の増加

1 光合成生物の誕生

2 酸素濃度の変遷

3 酸素の急激な増加

第5章 気候の劇的変動史

1 気候変動の鍵を握る二酸化炭素

2 繰り返す氷河時代

3 生物が巨大化した大氷河時代

4 恐竜の反映と超温暖化

5 ヒマラヤの隆起がもたらした寒冷化

第6章 スノーボールアース・イベント

1 原生代氷河時代の謎

2 スノーボールアース仮説

3 そのとき生物は?

4 破局的な地球環境変動と生物の大進化

第7章 恐竜絶滅を引き起こした小惑星衝突

1 小惑星衝突説

2 ストレンジラヴ・オーシャン

3 海洋衝突

第8章 そして現在の地球環境へ

1 氷期と間氷期は規則的に訪れるのか

2 突然の寒冷化――ヤンガードリアス

3 安定な気候と人類文明の繁栄

4 これからの地球環境――過去からなにを学ぶか

参考文献

あとがき

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