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情報:農業と環境 No.113 (2009年9月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

八木一行 物質循環研究領域上席研究員: 第54回日本土壌肥料学会賞を受賞

農業環境技術研究所の八木一行 物質循環研究領域上席研究員が、第54回(2009年度)日本土壌肥料学会賞を受賞することが決まりました。日本土壌肥料学会賞は、「土壌・肥料・植物栄養学及びこれらに関連する環境科学に関する顕著な業績」をあげた日本土壌肥料学会の会員に授与されるものです。授賞式と記念講演が、9月15日から京都大学で開催される日本土壌肥料学会2009年大会の中で行われます。

受賞課題名と受賞記念講演の概要は以下の通りです。

農耕地土壌における温室効果ガスの発生量評価に関する研究

八木一行

(農業環境技術研究所 物質循環研究領域 上席研究員)

受賞記念講演の概要

農耕地土壌は温室効果ガスである二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、および亜酸化窒素(一酸化二窒素:N2O)の重要な発生源である。これらのうち、特に CH4 と N2O については、世界的な水田耕作の拡大と窒素施肥量の増加により農耕地土壌からの発生量は過去半世紀以上にわたって急激に増加してきたことが指摘され、それらの発生量評価と発生削減技術の開発が求められている。本研究では、わが国と他のアジア諸国の農耕地で、これらの温室効果ガス発生量の計測を行い、その発生特性と制御要因を明らかにするとともに発生量の広域評価を行った。同時に、各種技術による発生削減方策を検討した。

1.水田からの CH4 発生

水田からの CH4 発生量の増大がその大気中濃度増加に対して重要であることは指摘されていたが、世界の水田面積の 90% 以上を占めるアジア地域での圃場実測例はきわめて限られていた。本研究では、わが国と他のアジア諸国の水田において CH4 発生量を実測し、室内実験等による解析結果と合わせて発生変動要因を検討した。その結果、以下のことが明らかになった。

(1) CH4 発生に顕著な日および季節変動があり、地温や表層土壌の酸化還元電位の変動が大きな影響を及ぼしている。

(2) 土壌のタイプや有機物施用により CH4 発生量は大きく異なり、CH4 発生量と湛水前の土壌中の易分解性有機物含量との間に相関がある。

(3) 中干しや水稲収穫前の落水により CH4 発生と N2O 発生とのトレードオフがあるが、わが国の水田からの N2O 発生量は比較的少ない。

さらに、これらの知見を元に発生削減技術の検討を行い、有機物管理、水管理、肥料と資材の添加、および水稲品種選抜が有効な技術であることを提案した。特に、中干しと間断潅漑等、水管理による技術は効果が大きいとともに、わが国や他のアジア諸国における潅漑設備の整備された水田では農家に受け入れられる可能性が高く、実用的な技術であることを呈示した。水管理による削減技術は、現在、農林水産省の全国事業としてわが国における普及段階に至っている。

2.窒素肥料の施用に伴う N2O 発生

農耕地への窒素肥料の施用が N2O 発生を増大することは知られていたが、わが国と他のアジア諸国の農耕地において、通年を通した発生量の計測や、肥料タイプと施肥法が発生量に及ぼす影響に関する知見は限られていた。そのため、わが国の黒ボク土畑と沖積土転換畑、および中国とインドネシアの畑地において、発生量とその要因に関する計測を行った。その結果、以下のことが明らかになった。

(1) わが国の黒ボク土畑では、窒素施肥と降雨にともなって N2O 発生ピークが現れる。その排出係数は 0.1 % 〜 0.4 %と小さい。

(2) わが国の沖積土転換畑では、夏期に大きな N2O 発生ピークが見られる。

(3) 肥料タイプ(速効性肥料、被覆肥料、硝化抑制剤添加)や施肥法(全層と局所)の違いにより、土壌中の無機態窒素量に伴った特徴的な N2O 発生が見られる。

これらの知見から、発生削減技術として硝化抑制剤添加や被覆肥料が有効な場合もあるが、全体としては施肥窒素量の削減が必要であると考えられた。

3.農耕地温室効果ガス発生インベントリーの算定

本研究成果を含む既往文献からアジア諸国における水田からの CH4 および N2O 発生実測データを収集し、それらのデータベースを構築した。次に、これらのデータについて、発生量とその要因の関係を解析した。その結果、CH4については、現場の水分状況や有機物投入量が発生量への寄与の大きいことが示されるとともに、算定の基準となるベースライン排出係数 (1.30 kg CH4 ha-1 day-1) を求めた。さらに、常時湛水された潅漑水田に比べ、中干しを行った潅漑水田や天水田での発生量が少ないこと、耕作前の湛水は栽培期間発生量を大きく増加させること、施用有機物の重量あたりの発生量増大効果は、稲わら・緑肥>きゅう肥>堆肥であることを示し、それぞれの拡大係数を算定した。N2O については、常時湛水に比べて中干しを行った水田で発生量の多い傾向が示されたが、それらの排出係数を個別に設定するための十分なデータが得られなかったため、全体としての排出係数 0.31% を呈示した。

これらの結果は、2006 年に改訂された IPCC ガイドラインにおけるデフォルト値として採用され、世界各国での温室効果ガス排出量算定の精緻化に貢献した。

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