名前がついていない昆虫が日本にもたくさんいるのを知っていますか?
日本には約10万種の昆虫が生息していると言われていますが、実はまだその30%くらいしか分かっていません。熱帯地域ではもっと分かっていません。
昆虫の分類学者は、昆虫を同定してほしいとよく依頼されます。同定というのは、ある昆虫を調べて、正しい名前(学名)を明らかにすることです。農業環境技術研究所には害虫の同定依頼がよくありますが、食品に混入した昆虫が持ち込まれることもあります。この場合は、体がばらばらになっていることが多く、パズルを解くような難しさもあります。
外形だけで同定できる場合もありますが、たいていは解剖をして、生殖器などを近縁種と比較して同定します。
まだ分かっていない昆虫がたくさんいることや、よい図鑑がない場合もあり、同定は簡単ではありません。分類学者はそれぞれの専門の昆虫グループを研究していますが、1個体の名前を調べるのに何日もかかることや、何日かかっても名前が分からないことがあります。
ヘリキスジノメイガ
クロタバコガ
最近の例では、2008年の8月から9月に、名前の分からないガ(蛾)の幼虫が北海道の各地で大量に発生し、いろいろな作物を食べて大きな問題になりました。農業環境技術研究所で羽化した成虫を調べて、ヘリキスジノメイガ (写真上) と同定しました。
調べた昆虫にまだ名前がついていない時は、新しい名前(学名)をつけて、論文で発表します。昆虫の学名は、アルファベットで 「属名+種小名+新種を発表した研究者の名前」 (写真下参照) で表します。ある程度ルールはありますが、種小名は研究者が自由につけられます。
まだ名前のない未記載種はたくさんいるのですが、すでに知られている種かどうかを調べるのが、実はとても大変です。日本ではじめて見つかった昆虫でも、同じ種が別の国ですでに報告されていることが多いので、全世界のたくさんの文献や標本を見て名前がついているかどうかを判断します。
新種に自分の名前がつくのは、研究者としてうれしいことですが、多くの生物が名前をつけられないまま絶滅していくことは、とてもさびしく感じます。
(農業環境技術研究所 農業環境インベントリーセンター 吉松慎一)
農業環境技術研究所は、一般読者向けの研究紹介記事「ふしぎを追って−研究室の扉を開く」を、24回にわたって常陽新聞に連載しました。上の記事は、平成21年1月21日に掲載されたものを、常陽新聞新社の許可を得て転載しています。
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