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情報:農業と環境 No.116 (2009年12月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

「農薬および POPs の土壌残留と食の安全に関する国際セミナー」 が開催された

10月26日から30日まで、台湾農業薬物毒物試験所において、農薬およびPOPsの土壌残留と食の安全に関する国際セミナー (2009 International Seminar on Pesticide and Persistent Organic Pollutants (POPs) Residues in the Environments and their Effects on Food Safety, in Association with MARCO (最新のページに変更しました。2012年1月) ) が開催されました。

土壌に処理された農薬は、時間の経過とともに徐々に分解しますが、土壌中にどれくらい残留するかについては、土壌や気象を含む環境条件によって大きく異なることが知られています。また、新規も含めた残留性有機汚染物質 (POPs) のうち、15 (うち1つは候補) は農薬由来であり、農耕地において長期に残留することが報告されています。

わが国では、2006年5月29日に農薬のポジティブリスト制度が施行されました。そのことによって、一部の例外を除いて、国内および輸入作物と農薬のすべての組み合わせに対して、農薬の残留基準値が設定されています。また、アジア諸国においても、農薬やPOPsが作物に残留する問題は顕在化しており、国際的にも緊急に解決すべき課題となっています。

そこで、農業環境技術研究所はアジア太平洋食料肥料技術センター(FFTC)および台湾の関係機関と協力し、台湾において「農薬およびPOPsの土壌残留と食の安全」をテーマとする国際セミナーを開催しました。このセミナーは、農環研を中心とする国際的な取り組みである モンスーンアジア農業環境研究コンソーシアム(MARCO) のサテライトセミナーとして位置づけられています。

このセミナーでは、具体的には、わが国を含むアジア諸国における農薬やPOPsの作物残留の実態の紹介、問題への取り組み、残留機構の解明、対策技術などを紹介することにより、参加者が互いに情報を共有し、POPsや農薬の土壌残留について、食の安全の観点からのリスク評価やリスク管理手法の開発を加速したり、国際協力に貢献したりすることをめざしました。各国から参加した20名の方々に講演していただき、その後総合討論を行った後に、農薬等の分析を実施している2つの施設 (TACTRI、環境分析研究所(EAL)) を視察しました。オーストラリアを含むアジア太平洋地域から総勢57名の参加がありました。

開催日時: 2009年10月26日(月曜日) 〜 30日(金曜日)

開催場所: 台湾農業薬物毒物試験所(TACTRI)など

参加者数: 57名 (海外19名(うち日本11名)、台湾5名、台湾のオブザーバー33名)

共催: アジア太平洋食料肥料技術センター(FFTC)農業環境技術研究所(NIAES)台湾動植物防疫検疫局(BAPHIQ) (最新のページに変更しました。2012年1月)台湾農業委員会(COA)台湾農業薬物毒物試験所(TACTRI) (最新のページに変更しました。2015年4月)中興大学 (NCHU) (最新のページに変更しました。2011年10月)

プログラム:

10月27日(火曜日)

・ 開会 (Chin-Wen Kao(TACTRI)、Ying Yeh(BAPHIQ)、佐藤洋平(NIAES)、今井英夫(FFTC))

・ 基調講演 田辺信介(愛媛大学)、Rai Kookana (CSIRO Land and Water)

・ 一般講演 (国際的動向(2)、土壌残留(清家伸康など 2)、モニタリング(2)、水質汚染(3))

10月28日(水曜日)

・ 一般講演 (土壌環境修復(大谷卓、高木和広)、分析技術(3))

・ 各国情勢報告(4)

・ 研究所視察-1 TACTRI

・ 総合討論 (與語靖洋)

10月29日(木曜日)

・ 研究所視察-2 EAL

セミナーの内容:

このセミナーの参加者は、アジア太平洋地域のPOPsと農薬の農業利用や環境科学に関連した公的試験研究機関や大学の第一線で活躍している方々で、MARCO や農林水産省委託プロジェクト 「生産・流通・加工工程における体系的な危害要因の特性解明とリスク低減技術の開発」(野菜等におけるPOPsのリスク低減技術の開発)(略称:「生産工程」(POPs)) がめざすところにふさわしい場となりました。このセミナーを通じてアジア太平洋地域の方々との情報交換を行うことで、農業環境にとどまらず、広く環境や食の安全に関する研究推進の加速や発展に効率的につなげることができました。

基調講演では、アジア地域におけるPOPsの長期モニタリングの必要性や、ネイチャー誌 (442 (10) Aug. 2006) に掲載された記事 「黒は新しい緑(Black is the new green.)」 を題材として、ブラック・カーボン (Black carbon; 土壌中の “炭” の成分) やバイオアベイラビリティ (Bioavailability; 生物学的利用能) について紹介されました。

一般講演では、従来の12物質に加えて新たに11物質(うち2物質は候補)がPOPs指定物質に追加されたこと、農薬の後作物への残留に関するOECDのテストガイドラインの導入、「アグリフード(農場から食卓まで)」の概念、韓国で導入している魚類への生物濃縮のリスク評価手法、分析データの信頼性を高めるための農薬分析の内部・外部精度管理、ダイオキシンの生物検定法「DR-CALUX」など、さまざまな情報提供がありました。

各国の情勢報告では、フィリピン・台湾・ベトナム・カンボジアなどから、POPsの環境や作物の汚染実態、農薬の使用実態や使用規制などの状況が詳細に報告されました。

また、3日目には台湾政府直轄のTACTRI(台湾農業委員会管轄)とEAL(環境保護局管轄)を見学しましたが、分析機器などが体系的・組織的に整備され、安全面でも充実したものでした。

アジアからの参加各国は、POPsや農薬に関して、現場から行政まで、わが国以上に、またはわが国と異なるさまざまな問題を抱えており、それらの多くは食や環境の安全の面から早急に解決すべき課題でした。そのためにも、MARCO の活動を通して、より具体的かつ継続的に協力関係を作り上げていく必要性を痛感しました。セミナーの最後に行った総合討論においては、今後とも情報交換のできるような国際ネットワークの構築を提案して会を閉じました。

セミナー参加者の集合写真(写真)

写真1 セミナー参加者の集合写真 (農薬およびPOPsの土壌残留と食の安全に関する国際セミナー)

セミナーの様子(写真)

写真2 セミナーの様子 (農薬およびPOPsの土壌残留と食の安全に関する国際セミナー)

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