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情報:農業と環境 No.117 (2010年1月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

第1回世界環境史会合 (8月 デンマーク/スウェーデン) 参加報告

2009年8月にデンマーク王国の首都コペンハーゲンで開催された World Congress of Environmental History (WCEH、世界環境史会合) に参加しました。

この会合は、デンマークのロスキルド大学とスウェーデンのマルモ大学の共催で行われました。そのために、会場が2か所に分かれていて、会合の最終日にはなんとデンマークから隣の国のスウェーデンへ参加者全員が移動することになっていました。どうして海の向こうの国へ行けるのかとても心配でしたが、コペンハーゲン市内の普通の駅から乗った電車は海底トンネルと鉄橋を通って海峡を難なく渡り、国境をまったく意識することなく、40分ほどでスウェーデン側のマルモ市に着いてしまいました。これほどまでも自由に国境を渡れるようになったことは、ヨーロッパの人々にとって画期的な歴史の進歩だと、同乗していたドイツ人の研究者が感慨深そうに言っていました。

会合のもう一つの共催団体に International Consortium of Environmental History Organizations (ICEHO) がありました。これは、ヨーロッパ環境史学会(European Society for Environmental History)など、世界各国で環境の歴史を重視する19の団体が組織したものです。地球規模で環境にまつわる諸問題について議論を深めるために WCEH を企画し、今回、晴れて第1回会合の開催にこぎ着けたという経緯があったそうです。おかげで、出席者と発表トピックは千差万別で、対象地域は全世界、対象の時代は古代から現代、課題としては、農林漁業はもちろん、気候変動、都市計画、河川・水門、衛生、交通、公害、観光、リスク評価、戦争、外来種、自然保護政策、環境法といったように、どの分野の研究者でも興味が持てる会合でした。地図資料や GIS (地理情報システム)を活用する研究も多く、私としても興味のつきない会議でした。

第1回世界環境史会合の会場となったコペンハーゲン・カンファレンスセンター(写真)
 写真 コペンハーゲン・カンファレンスセンター(第1回世界環境史会合の会場)

とくに興味のあったヨーロッパの農業史についての発表は多数ありました。たとえば、On the sustainability of the Mediterranean agro-ecosystems in Catalonia: land use, fertilizing methods and nutrient balances from mid-19th century to the present (カタロニアにおける地中海型農業生態系の持続性について: 19世紀から現在に至る土地利用、施肥方法と養分バランス) という発表では、スペインの伝統的な施肥方法を再現しながら、農地の詳細な養分分析の結果を報告していました。

歴史 GIS の例としては、Historic ponds in rural southern Burgundy: water management from the Medieval Period through the present day (南ブルゴーニュ農村地域におけるため池の歴史:中世から現在に至る水管理) という発表で、フランスのため池 (ただし潅漑(かんがい)用ではなく水車用) の分布変化を古地図の解析から復元する研究に感激しました。

気候変動に関する研究も多く、Reconstruction of the European Climate in the Past Millennium Based on Documentary Data (文献データによる過去千年におよぶヨーロッパの気候の復元) というセッションでは、あらゆる歴史的な記録からヨーロッパの気候の復元を試みている研究チームの報告を聞けました。日本では桜の開花日の記録から昔の気温を推定する研究が知られていますが、ヨーロッパではワイン用のブドウの収穫日がとくに重要で、その記録が数百年もの間記録されている修道院などがあるそうです。また、イギリス海軍の航海日誌から1700年ころのイギリス海峡における天気図を復元する試みには驚きました。

私は、Spatial frameworks of land use and development: the environmental history of the Kanto Plain, Japan (土地利用変化と開発の空間的枠組み: 日本の関東平野の環境史) というタイトルで、迅速測図の GIS 解析をもとに関東平野の環境史について発表しました。発表後に、日本の自給的な農業の姿はヨーロッパに似ているとスウェーデンの研究者からコメントをいただきました。一方、日本近世史を専門とするアメリカ人の歴史家からは、歴史 GIS はどのように江戸時代の研究に役立つのか、より詳細に説明してほしい、とつっこんだ質問を受けました。

WCEH に出席して、すべての環境問題には歴史があることを再認識しました。また、環境研究は最新の科学技術の手法とともに、古文書や古地図や絵画など、さまざまな歴史的資料をも活用せざるを得ない、きわめて学際的な分野でなければならないことを目の当たりにしたのも、収穫の一つでした。

コペンハーゲンの市街(写真)
 写真 コペンハーゲン市街

(生態系計測研究領域 D.スプレイグ)

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