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情報:農業と環境 No.117 (2010年1月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

冬の田んぼ:米粒と渡り鳥
(常陽新聞連載「ふしぎを追って」)

北京オリンピックの盛り上がりも一段落した昨年秋、鳥の世界でも新たな世界新記録が打ち立てられました。オオソリハシシギという渡り鳥が、アラスカ―ニュージーランド間1万1000キロを休まずに飛行することが、アメリカの研究者らによって明らかにされたのです。

日本にも冬になると北方から多くの鳥が訪れ、春の到来とともにまた子育てをする北方へと帰っていきます。なかでも、マガンやオオヒシクイといった大型の水鳥は、日本とロシアの間、約2000キロを休まずに飛行することが知られています。彼らはいったいどのようにしてそのような長距離を飛び続けることができるのでしょうか?

マガンは冬の間、体重を約20%も増やして、渡りのためのエネルギーを蓄えることが知られています。人間にたとえると、60キロの人が数か月で12キロも太るということになります。ぜいたくな人間とは違い、マガンの主な食べ物は収穫後の田んぼに落ちている米粒です。厳しい冬を生き抜き、はるか数千キロかなたの繁殖地で子孫を残すため、彼らは毎日、必死になって田んぼで米粒を拾っています。

マガン (写真)

マガン

わたしは、マガンが食べ物を求める北海道の田んぼに、どのくらいの米粒が落ちているのか数えたことがあります。結果は、田に残された1平方メートルのわらの中に平均して1330粒という数でした。平均的な大きさの田んぼには、約40キロもの米粒が、収穫の際に取りこぼされて残っていることになります。大ざっぱな計算にはなりますが、この数字を使って日本全国の田んぼに落ちている米粒の量を計算すると、約17万トンにもおよびます。

これらの米粒を食べている渡り鳥は、マガンだけに限りません。カシラダカやオオジュリンなどの小鳥から、ツル類やカモ類、ハクチョウ類に至るまで、全国で何十万、何百万もの渡り鳥が、田んぼに落ちている米粒を食べて冬の間を生き抜き、渡りのためのエネルギーを蓄えているのです。

田んぼに取りこぼされる米粒の量は、面積の変化、収穫の機械化、秋耕の有無など、農業のさまざまなあり方によって大きく左右されることが知られています。私たちの食べ物を作りながら、田んぼが育むさまざまな生き物の生活を守っていくことは、これからの大切な問題です。想像してみてください。あなたが何気なくハシでつまんでいるその米粒を、今日も田んぼでは命をかけて探している鳥たちがいるのです。

(農業環境技術研究所 生物多様性研究領域 天野達也)

農業環境技術研究所は、一般読者向けの研究紹介記事「ふしぎを追って−研究室の扉を開く」を、24回にわたって常陽新聞に連載しました。上の記事は、平成21年2月11日に掲載されたものです。

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