土の中には常に微量の放射性物質が存在しています。代表的なものはカリウムの同位体、カリウム40 (K-40) です。天然にあるカリウムの 0.01 パーセントはこの放射性カリウムで、土壌1キログラム当たり数百ベクレルの放射能を示します。1秒間に1個の原子核が壊れて放射線が出るとき1ベクレルといいます。
カリウムは植物にとって重要な栄養素であり、植物は放射性カリウムも積極的に吸収します。また、人にとっての必須元素でもあるので、放射性カリウムはいつも私たちの体の中に存在しています。
ウラン (U-238) やトリウム (Th-232) も自然放射性物質として土に含まれています。放射能の濃度はどちらの元素も土壌1キログラム当たり、数十ベクレル程度ですが、作物には吸収されにくいことが確かめられています。茨城県で多く見られる黒ボク土の畑で30種類以上の作物を栽培したところ、可食部のウラン濃度は、いちばん高い場合でも土壌中の濃度の200分の1程度でした。また、水田で稲を栽培しても、ポット栽培試験でも、これ以上にはなりませんでした。
土の中には、自然放射性物質以外に、人間が作り出した放射性物質も見つかります。過去に行われた大気中核実験で作り出され、世界中に広がった放射性セシウム (Cs-137) や放射性ストロンチウム (Sr-90) が、今でも全世界の表層土壌にあります。
濃度がもっとも高かった1960年代には、日本国内でも、土壌1キログラム当たり放射性セシウムが140ベクレル、放射性ストロンチウムが40ベクレル程度の場所があり、そこでとれた米や麦も私たちは食べていました。けれどもこれらの人工の放射性物質による被ばく量は、放射性カリウムによる被ばく量よりも小さく、日本で現在定められている輸入食品の放射能限度値 (暫定) も大きく下回っていました。被ばく量は、放射性物質の種類とベクレル数から計算できます。
一方、1986年のチェルノブイリ原子力発電所の事故で汚染された土壌が、今でもヨーロッパに残っています。2000年代になっても、前に示した限度値を超えたために、日本で輸入禁止となった食品があります。
土壌の放射能濃度を監視することで、私たちは安心して農作物を食べることができ、万一の事態への備えにもなります。農業環境技術研究所では、このための研究調査を続けています。
(農業環境技術研究所 土壌環境研究領域 木方展治)
農業環境技術研究所は、一般読者向けの研究紹介記事「ふしぎを追って−研究室の扉を開く」を、24回にわたって常陽新聞に連載しました。上の記事は、平成20年12月24日に掲載されたものです。
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