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情報:農業と環境 No.118 (2010年2月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

本の紹介 279: 世界食糧ショック ― 黒いシナリオと緑のシナリオ、 ジャン=イヴ・カルファンタン 著、 林昌宏 訳、 NTT出版(2009年10月) ISBN 978-4757122482

世界の農業問題、農業環境問題の今後を考える上で、示唆に富んでいる。

第2次世界大戦以降の世界の農業は、1961年から2005年にかけて世界の生産量が3倍に伸びるなど、順調な生産の伸びを示してきた。その最大の要因は生産性の向上であり、また、機械や資材等、安価な石油に依存できた点も大きい。こうして農業が近代化した結果、しばしば供給の伸びが需要の伸びを上回り、農産物は他の産業の製品に比べて低価格に推移した。すなわち、戦後長い間、農産物は買い手市場であった。安価な食料品が広く供給されるようになった結果、飢餓が減少している。増産は先進国ばかりでなく、アジアやラテンアメリカ、中東諸国でも著しく、これらの国の一人当たりの食料の摂取量は大幅に増加している。

しかし1980年代から生産の増加に陰りが見られるようになり、そして2000年代初頭には、農産物価格の下落の傾向が終わり、2008年の高騰(こうとう)となる。2007年から2008年にかけての穀物価格の高騰は、2006年の干ばつに端を発しているが、バイオエネルギー生産の動きも大きな要因となっており、バイオエネルギーの生産がこのまま増え続けた場合には、需給の逼迫(ひっぱく)も懸念される。中国やインド、ラテンアメリカ諸国では、経済発展により食糧需要は大幅に増加しており、今後はさらなる伸びが確実である。

その一方で、天然資源(自然資源、土地や水)の問題、化石燃料や農業資材の価格、集約農業の環境に及ぼすインパクトの問題が顕著になり、さらに地球温暖化が世界の多くの地域で食料生産にマイナスの影響を及ぼすおそれが強まっている。人類は、限られた資源とぜい弱な気候という状況において食料の増産に取り組まねばならず、1970年代の緑の革命の手法は適用することはできない。すなわち、こうした状況で供給を大幅に増やすことのできる新たな農業システムは開発されておらず、農業と環境との関係を支配する入り組んだ影響を考慮しながら、新たな攻勢に出なければならず、これは 「21世紀における人類最大の挑戦である」 と著者はいう。

第2部は 「黒いシナリオ」 で、世界が何もしなかった場合に起こりうる事態を予測する。第3部は 「緑のシナリオ」 で、世界の食糧問題解決のために取り組むべき課題について詳述する。これから農業が直面する危機にはエネルギー問題と地球温暖化問題という2つの横断的な課題が内在する。このため自国や共同体の食料の供給を確保する政策を打ち出すだけでは不十分であり、国際協調体制の強化の重要性を説く。そして最貧国の農業の近代化、食料生産体制の活性化への支援とともに、産業国では農業保護主義を断念し、環境保全や気候変動に対する取り組みを考慮した農業体制を実施することを提唱する。

著者はフランス人経済学者で、2002年からブラジルに移住している。自由貿易を主張し、自国農業保護論者と論争を繰り広げていると言うが、EUの基本的な考え、戦略が見て取れる。

本書は多くのデータに基づいており、世界の農業事情を知る上でも参考になる。山積している課題を国際社会が解決し、新たな知恵で21世紀の食糧問題を解決できるかどうか。グローバル時代の世界の枠組みの中で、「農業環境」 は新たなルール作りの鍵となっていると言えよう。

目次

第1部 危機

 第1章 食糧ショックが発生するまで

 第2章 持続的で強い衝撃

 第3章 忍び寄るマルサスの影

第2部 黒いシナリオ――もし、何もしなかったら

 第4章 変調をきたす世界の農産物貿易

 第5章 先進国の食費

 第6章 途上国では貧困が拡大する

第3部 緑のシナリオ――我々がなすべきこと

 第7章 途上国の農業を活性化させる

 第8章 先進国に責任感を植え付ける

 第9章 食糧の供給安全の対価

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