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情報:農業と環境 No.118 (2010年2月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

2009年臭化メチルの代替技術と放出削減に関する国際研究集会 (11月、米国) 参加報告

2009年11月10日から13日にかけて米国サンディエゴで開催された Annual International Research Conference on Methyl Bromide Alternatives and Emissions Reductions (臭化メチルの代替技術と放出削減に関する国際研究集会) に参加しました。参加者は約250名、発表件数は111件で、日本からの参加者は把握できただけで4人、発表は私を含めて2件のみでした。

この研究集会は、1994年にオーランドで開催されてから今回で16回目になり、米国環境保護庁 (USEPA) と米国農務省 (USDA) の共催で行われています。臭化メチルの使用はすでに2005年に全廃されたのに、「いまだに、このような研究集会をやっているのか?」と疑問に思われる方がおられるかもしれません。しかし、臭化メチルは決して過去の問題ではなく、世界各国の研究者、行政当局、農業者などが対応に苦慮している、現在進行中の問題です。臭化メチルは2005年に検疫への用途を除いて「全廃」となりましたが、実行可能な代替技術がない場合には、モントリオール議定書締約国会合による決定に基づき、不可欠用途への使用許可数量が毎年決定され、使用が続けられています。ちなみに、2010年の許可数量の多い順に、米国 2,763.5 トン、日本 267.0 トン、オーストラリア 36.4トン、カナダ 30.3 トンで、米国が圧倒的に多いのですが、日本は世界2位です。日本を含むこれらの国も 「2013年には土壌くん蒸用臭化メチルの不可欠用途全廃のための国家管理戦略」 を策定し、不可欠用途全廃に向けて努めているところです。

本研究集会は「臭化メチルによるオゾン層破壊を食い止めるため」 の、まさに問題解決型の研究集会で、行政当局者、大学や公的研究機関、企業の研究者、くん蒸業者、農業者など、さまざまな立場の人が参加します。さまざまな内容やレベルの研究発表がありますが、現場への応用を意識したものが圧倒的です。このような研究集会は日本ではまずなく、私にとっては、とても勉強になり大事にしている研究集会の一つです。

研究集会での発表をいくつか紹介します。

まず、フッ化スルフリル (SO2F2) についてですが、日本での商品名はバイケーンとして2002年4月1日に木材くん蒸用殺虫剤として農薬登録され、木材や文化財用の代替薬剤として大きく期待されています。しかし、フッ化スルフリルは、大気中の寿命が長いため(36年、対流圏での寿命については300年以上とか1万年以上などの評価もあります)、現在、北半球の大気中濃度は 1.5 ppt(1兆分の1)で、濃度は年々高くなっています(年5%程度の増加)。フッ化スルフリルの地球温暖化係数(GWP: 二酸化炭素を基準とする濃度あたりの温室効果の強さ)は 4,600 程度(さまざまな評価があります)で、すでに自動車100万台が排出する二酸化炭素と同じ程度になっているという報告が、カリフォルニア大学のグループからありました。フッ化スルフリルは、臭化メチルの代替として、また、電気および電子機器の絶縁材などに広く使用されている六フッ化硫黄 (SF6) の代替として大きな期待があっただけに、今後の動向が注目されます。

USEPA による 「土壌くん蒸(植え付け前処理)」 と 「ポストハーベスト(収穫後処理)」 に関する2つのセッションがそれぞれ半日かけて行われ、「土壌くん蒸に関するリスクマネージメント」のセッションに参加しました。これまで、臭化メチルの代替技術として多くの技術が提案されてきましたが、産業として成り立つための土壌病害虫(+雑草)防除技術として、だんだん絞られてきて、従来からある、クロルピクリン、D-D、メチルイソチオシアネート、ヨウ化メチルなど化学的防除資材の利用に頼らざるをえない状況です。このような状況下で、USEPA は、これらの土壌くん蒸剤の使用に関して相当にきびしい規制を行う予定であり、その一つがバッファーゾーン(緩衝帯)の設置義務化です。従来方法による緩衝帯は基本的に300フィート(約91メートル)ですが、ガス難透過性被覆資材を用いた場合には、そのバッファーゾーンの規制を緩和することと、GAP(農業生産工程管理)に反映させることが検討されています。そのためには、土壌くん蒸で用いる被覆資材のガス透過速度を厳密に評価する必要があり、ガス透過速度評価方法の提案を行っていました。USEPA の提案に対し、セッションの予定時間を大幅に超える活発な質疑が行われていました。

オプションで開催されたアリゾナ大学の久保田智恵利さんの主催する、接ぎ木に関するミーティングに参加しました。専門分野は異なりますが、このミーティングに参加するのも今回で3回目になりました。毎回10人程度のこぢんまりとしたミーティングで、USDA の研究プロジェクトで行われている 「米国での接ぎ木技術の導入」 の中間報告や打合せに参加させてもらっている感じです。とても活発に議論が行われており、日本では一般的な接ぎ木技術ですが、米国で導入・普及をめざすには解決すべき問題も多くあるようです。私も米国の広大な畑を想像した瞬間に、大量の接ぎ木苗をどのように準備するのか途方に暮れる思いを感じました。米国での接ぎ木苗の供給では、日本の企業のノウハウを活用することで大きな商機があるように感じます。この研究集会で多く感じるのは、日本の土壌病害虫防除技術には米国や欧州よりも優れたものも多く、日本では一般的な技術であっても他国ではほとんど知られていないことです。日本では発表を躊躇(ちゅうちょ)するような技術でも、紹介する意義は多くあるように感じます。

私は、Permeation rates of soil fumigants through plastic films by the cup method (カップ法による土壌くん蒸剤のプラスチック透過速度測定)というタイトルで、私たちの行っている「低濃度エタノールを用いた土壌消毒技術の開発」の一環で実施した、エタノールと他の土壌くん蒸剤、酸素ガスのフィルム透過速度の評価と、各薬剤とフィルム素材との親和性の評価をもとに、より効率的に土壌くん蒸を行うための提案を行いました。

次回の研究集会は、2010年11月に米国オーランドで開催されます。関心のある方はぜひ参加、発表されてはいかがでしょうか。

懇親会で(集合写真)
写真 懇親会のようす

(有機化学物質研究領域 小原裕三)

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