昨年は農薬など化学物質による食品汚染の事件や報道がたくさんありました。今回は、農作物など食品中の農薬等の化学物質をチェックする 「残留分析」 についてお話しします。
残留分析は、まず食品を細かく砕くことからはじまります。次に、分析のじゃまになる成分を取り除くため、抽出・精製などの前処理をします。そして最後に分析装置に注入して濃度を測定します。食品によっては妨害成分が多いので、前処理が大変に重要で手間もかかります。また、農薬は分解しにくいというイメージがあるかもしれませんが、現在使われている農薬は、実は分解しやすいものが多く、前処理には手早さと注意深さも必要です。農薬以外の化学物質についても同様にして分析が行われます。
現在、分析対象とされている農薬や抗生物質などの種類は約800もあります。1種類の分析機器でこれらすべての農薬を分析することはできませんから、種類の異なる複数の分析機器を使って分析を行うことになります。
農薬の濃度を正確に測るには、測定しようとする農薬の純粋なもの(標準品)と比較する必要があります。また、分析対象としていない物質や未知の有害物質を検出することも困難です。分析に用いられる機器は数百万円から数千万円と高価ですが、万能ではないのです。ですから、食品へのメラミンの混入のような、単なるミスでは起こりにくい想定外の汚染を発見することはなかなかできません。
また、分析機器には、「人間に有害なもの」 と 「無害なもの」 を識別することができません。ある食品を食べて具合が悪くなった場合、その原因を明らかにすることは実はとても難しいのです。例えば、「○○を食べたら具合が悪くなった」 という事件と、「その○○から有害な××が検出された」という分析結果とがあっても、「具合が悪くなった原因は××である」と直ちに断定することはできません。本当の原因物質が検出できていないことがあるからです。
また、先の分析結果は、「その○○から調べた範囲内で有害な××が検出されたが、その濃度は人体に影響のない濃度である」と、実は下線部のような情報が隠れているかもしれません。「分析で××が検出された」 という結果だけで判断するのではなく、その濃度が私たちの健康に影響する濃度かどうかという情報にも注意を払うことが大切です。
分析機器と農薬の標準品
(農業環境技術研究所 有機化学物質研究領域 石坂眞澄)
農業環境技術研究所は、一般読者向けの研究紹介記事「ふしぎを追って−研究室の扉を開く」を、24回にわたって常陽新聞に連載しました。上の記事は、平成21年1月28日に掲載されたものです。
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