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情報:農業と環境 No.119 (2010年3月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

本の紹介 280: グリーン資本主義 ―グローバル「危機」克服の条件、 佐和隆光 著、 岩波書店(2009年12月) ISBN978-4-00-431221-5

深刻化する地球温暖化の一方で、2008年の世界同時不況以来低迷する景気。オバマ大統領が提唱するグリーン・ニューディール政策など、温暖化対策への投資によって新たな雇用や経済発展を生み出す動きが強まっている一方で、二酸化炭素の高い排出削減目標は経済の発展を阻害するという意見も経済界を中心に根強い。環境保全と経済の発展は矛盾するのだろうか。

本書は、「経済のためにこそ環境を」 と説き、新しい経済システムとしての 「グリーン資本主義」 を提起する。以下、概要を紹介する。

20世紀は電力・石油の世紀であり、化石燃料を燃やして二酸化炭素を放出することで、経済発展・成長を遂げてきた。京都議定書は温室効果ガス排出の削減を先進国に義務づけるという、歴史的に画期的な出来事であった。しかし、市場の力で温室効果ガスを削減できるものではなく、政府が排出枠取引、環境税の導入等の経済的効果を講じて省エネルギーを促し、技術開発を誘引するのが、自由主義経済のもとで気候変動を緩和させる適切な対策である。

世界同時不況の克服のために先進諸国は金利引き下げと財政出動による内需喚起を図ったが、その効果は微々たるものに過ぎなかった。その一方で、今回特効薬となったのは、中国政府の財政出動と金利引き下げによる内需喚起であった。すなわち、財政出動により中国の電化製品や自動車に対する需要が顕在化し、中国の製造業が活性化、日本への部品・製品の注文の急増という結果になった。すなわち、政府の財政拡大で景気と雇用の拡大を目指すというケインズ主義的財政金融政策は先進国ではもはや無効と化したが、他方新興国・途上国では不況対策の特効薬として効果が大きく、先進国からの投資が新興国・途上国の需要を掘り起こし、それが先進国の輸出増につながるという、ブーメラン効果が期待できる。

そして、これからの資本主義経済をけん引するのは、新興国・途上国の耐久消費財の確実な需要を引き起こすグローバル・ケインズ主義と、先進国におけるグリーン・ニューディール政策の組み合わせであり、グローバル・ケインズ主義のインセンティブとなるのが、クリーン開発メカニズム (CDM) である。

CDMを機能させるためには、先進国に対する厳しい温室効果ガス排出削減の義務づけが必須(ひっす)である。すなわち、気候変動の緩和に必要な厳しい排出削減義務を先進国に課すことで、グローバル・ケインズ主義とグリーン・ニューディール政策のインセンティブとなり、ひいてはそれが世界経済の持続的発展をもたらす。

かねてより著者は、「経済変動対策が経済成長を鈍化させる」 という主張に対して誤謬(ごびゅう)であると批判してきた。2020年までに排出量を90年比で25%削減するという鳩山イニシャティブに対しても、経済へのネガティブな影響の数値的評価が喧伝(けんでん)されているが、そうした数値をはじきだした計量経済モデルで10年先を予測するのは不可能に近く、その欺瞞(ぎまん)性を批判する。

二酸化炭素削減の世紀ともいえる21世紀においても技術革新が経済成長のけん引力として働くことは真であり、環境制約の克服に資する低燃費、低炭素化、廃棄物最小化などのエコ製品の開発・普及こそが、先進国経済のこれからのけん引力となるとし、科学技術の重要性を指摘する。

資本主義経済のグリーン化、グローバル・ケインズ主義的施策の実践、気候変動の緩和とそれへの対応が、人類の生存のために喫緊(きっきん)の課題であり、「グリーン資本主義」 への移行こそが新興国・途上国だけでなく、先進国の自己利益にもつながると結論する。

21世紀は、「環境」 が経済においてもっとも大きなキーワードであることは間違いない。

目次

序章 グリーン資本主義革命

第1章 「環境の世紀」の幕開け

第2章 二〇世紀の意味を問い直す

第3章 高まる気候変動への関心

第4章 国際金融危機と世界同時不況

第5章 日米両国の政権交代

第6章 経済成長のパラダイム・シフト

第7章 人類の生存を脅かす九つの危機

第8章 気候変動の緩和策

第9章 グローバリゼーションの曲がり角

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