地球環境の変化が世界中で真剣に議論されはじめたのは、比較的最近のことである。世界気候会議(WMO)が温室効果による気温上昇を警告したのが1979年、世界各国の政策担当者と研究者とが地球温暖化問題への対応を議論する場として、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が組織されたのが1988年だった。
地球圏・生物圏国際協同研究計画(IGBP)は、大気・海洋・陸域・生物などさまざまな分野の研究者が協力して地球規模の環境変化を研究するための計画として、IPCCと同じ1988年に発足した。この本の編者となった小川利紘、及川武久、陽 捷行の3氏は、それぞれ大気化学、植物生態学、土壌学を専門分野とするベテランの研究者であるが、日本におけるIGBPの活動にかかわる中で知り合ったという。
本書の第一部「研究の進展」では、IGBPやIPCCの目的、研究の経過や成果について、また地球生命圏GAIAの科学について語られている。
第二部は「地球システムにおける物質循環」として、生物にとって重要な炭素と窒素をとくに取り上げて、2つの元素が大気、陸域生物、土壌圏、海洋でどのように循環しているかをわかりやすく解説している。また、水循環と水資源についても別に1節を設けて説明している。
第三部「地球変動を追う」では、森林や農業生産、氷河、黄砂、海洋生物などに、気候の温暖化がどのように影響するかの研究、あるいは過去の気候変動を復元する研究などについて、各専門の研究者によって最新の知見が解説される。
編者によれば、本書は『一般の読者を対象とした科学普及書』として編集したが、『科学的な正確さを重視するため、つい説明が難しくなり、専門書の体裁を帯びてしまったところもある』とのことである。地球環境に関心があり、さまざまな研究分野の現状や展望について知りたいが、まったくの入門書ではものたりなく感じている学生、一般の読者に、最適の本と思われる。
なお、ASAHI ECO BOOKS (アサヒエコブックス) は、アサヒビール株式会社が環境保全型社会の実現に貢献することを目的に創刊したシリーズであり、本書は26冊めである。「農業と環境」の「本の紹介」では、これまでに2冊(「地球の悲鳴 −環境問題の本100選−」と「農と環境と健康」)を取り上げている。
目次
はじめに
第1部 研究の発展
1.地球圏・生物圏国際協同研究計画(IGBP)
第1期IGBP/第2期IGBP
2.世界気候研究計画(WCRP)および地球環境変化の人間社会側面に関する国際研究計画(IHDP)
世界気候研究計画の設立と目的/地球環境変化の人間社会側面に関する国際研究計画の設立と目的
3.気候変動に関する政府間パネル(IPCC)
はじめに/IPCCの使命/第2作業部会の第4次評価報告書の概要/おわりに
4.地球生命圏GAIAの科学
はじめに/地球生命圏GAIAに関わる出版物の流れ/地球生命圏GAIAとは?/『地球生命圏―ガイアの科学』の紹介/『ガイアの時代』の紹介/『ガイアの復讐』の紹介
第2部 地球システムにおける物質循環
1.人間圏の成り立ち
2.地球規模の炭素循環
(1)大気/(2)陸域生物圏/(3)土壌圏/(4)海洋/(5)森林における炭素吸収
3.地球規模の窒素循環
(1)大気/(2)陸域生物圏/(3)土壌圏/(4)海洋
4.水循環と水資源
第3部 地球変動を追う
1.気候温暖化による亜高山針葉樹林の動態変化
2.北方林再生時における成長段階に依存した二酸化炭素吸収能の変動
3.衛星データを活用したグローバルモデルによる純一次生産量の推定
4.熱帯林火災の大気環境への影響
5.地球温暖化が水稲生産に及ぼす影響の予測
6.地球温暖化が果実の収量・品質に及ぼす影響
7.ヒマラヤ山岳氷河変動
8.世界の氷河湖とその拡大
9.アジアの砂塵―黄砂―
10.エチゼンクラゲの大量発生―人類活動がもたらす海洋異変―
11.造礁性サンゴが語る地球環境変動
12.湖沼堆積物による古気候の復元
13.樹木年輪による古気候の復元
おわりに