前の記事 | 目次 | 研究所 | 次の記事 2000年5月からの訪問者数(画像)
情報:農業と環境 No.119 (2010年3月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

オゾンホールと連作障害:アルコールが地球を守る?
(常陽新聞連載「ふしぎを追って」)

地球を取り巻くオゾン層が太陽からの有害な紫外線を吸収していること、人間が作り出したフロンガスなどによってオゾンがこわされてオゾンホールと呼ばれる穴ができることは、みなさんもご存じでしょう。

実は、最近まで使われていた臭化メチルという農薬 (土壌消毒剤) にも同様な性質があることがわかり、「モントリオール議定書」 という国際的な協定によって使用が規制されています。

ところが、臭化メチルはさまざまな土壌病害虫や雑草に対してきわめて高い防除効果があり、連作障害の対策にも多く使われてきました。他の方法で同じ効果を得るには、ほかの農薬や土壌消毒技術を組み合わせる必要がありますが、これは農家にとって手間もお金もかかり、生産物の価格にも影響します。また、土壌消毒剤は、作業者の健康被害も心配されています。

そこで、農業環境技術研究所では臭化メチルに代わる新しい防除方法を研究する中で、アルコール (エタノール) に注目しました。

研究者にきくと、これまでに知られているたくさんの薬剤を使って土壌消毒の効果を調べたそうです。その中で昔から消毒剤として利用されてきたアルコールを選んだ理由の一つは、使ったあと短時間で分解消失するので環境への影響が小さいことでした。

図;農地の土壌消毒のために使われてきた土壌くん蒸剤である臭化メチルはオゾン層をこわす性質があるため国際的に使用が規制された。そこで、薄いアルコール(低濃度エタノール)を地表にたっぷりとまく土壌消毒法を開発した。

消毒液としてのアルコールは、約80%の濃さで効果 (微生物を殺す力) が一番高くなります。しかし、濃いアルコールは霧状にするとすぐに蒸発するし、土にたっぷりまくと費用がかかります。

これらの問題が解決されたのは大きな発想の転換のおかげでした。濃いアルコールは使わず、通常の殺菌効果が得られない薄いアルコール (濃度1%以下) を地表にたっぷりとまいて、蒸発しないように農業用ポリエチレンシートで覆いをしたのです。その効果は驚くほどでした。2週間置いただけで、病原性の細菌、糸状菌(カビ)、線虫、土壌害虫、雑草の発生が抑えられました。

低濃度のアルコールに防除効果がある理由はまだはっきりとはわかっていませんが、薄いアルコールで浸されると土壌中の環境が酸素の多い好気的な状態から酸素のない嫌気的な状態に変化し、有機酸が増加するのが理由の一つだろうと、研究者は考えています。

また、この方法が代表的な病害虫や雑草に有効であることは確認されましたが、実用化のためには、さらに調べなければいけないことがたくさんあります。そこで、今年から多くの研究機関と協力して、効果の解明、最適な施用条件、対象とする病害虫や雑草への効果の検証などの研究が始まっています。

(農業環境技術研究所 広報情報室 福田直美)
(現在 農林水産省 農林水産技術会議事務局 筑波事務所)

農業環境技術研究所は、一般読者向けの研究紹介記事「ふしぎを追って−研究室の扉を開く」を、24回にわたって常陽新聞に連載しました。上の記事は、平成21年4月15日に掲載されたものです。

もっと知りたい方は・・・

前の記事 ページの先頭へ 次の記事