春分の日を過ぎ、木々も芽吹き始めました。春はすぐそこです。少し気が早いようですが、春の風景に欠かせないタンポポについてお話ししましょう。
タンポポは道端で見かける植物です。どのような場所でよく見かけるかを調べると、耕作地や果樹園、墓地、神社の境内などに多いことがわかりました。タンポポは茎が短く草丈が低いために、他の植物との光をめぐる競争ではハンディキャップがあります。農耕地や墓地であれば、草刈りによって草丈の高い植物の生育が抑えられ、光が地表面まで届くのでタンポポも生長に必要な光合成を行うことができるのです。
ひとくちにタンポポと言っても、日本列島には地域ごとに特徴的なタンポポが、約15種分布しています。それらの多くには、地域名を用いた和名が付けられています。関東地方に分布する種であれば、カントウタンポポという具合です。また、黄色ばかりではなく、白い花のタンポポもあります。西日本を中心に分布するシロバナタンポポのことです。あまり知られていませんが、日本は世界有数のタンポポ大国なのです。
日本で見られるタンポポには外国から持ち込まれ、その後、全国に広がったものがあります。明治の初期に導入された一群については、セイヨウタンポポというわかりやすい和名が付けられています。在来と外来のタンポポは外見上よく似ていて、遠目には区別がつきません。しかし、花を下から包んでいる葉のような小片(総苞(ほう) 片)に注目すれば、両者を見分けることは簡単です。総苞片が上を向いていれば在来種、外側の総苞片が反り返っていれば外来種です。
ところが、近年、日本のタンポポを考える上で、大きな発見がありました。雑種タンポポの発見です。これまで花の形から外来のタンポポと見なしていたものの大半が、外来種の花粉が在来種についてできた雑種だったのです。これは、いろいろなタンポポのDNAの塩基配列を調べてわかったことです。この結果を総苞片の特徴と比較すると、総苞片が完全に反り返ったものが本当の外来種で、反り返りが中程度のものはすべて雑種でした。つまり、雑種タンポポは外来種と在来種の中間的な特徴を示していたのです。
在来と外来のタンポポは、いつ、どこで出会ったのでしょう? そこで生まれた雑種タンポポは、どのようにして全国に広がったでしょうか? 外来生物が日本の生物多様性に与える影響の実例として、調査や研究が続けられています。
(農業環境技術研究所 生物多様性研究領域 芝池博幸)
農業環境技術研究所は、一般読者向けの研究紹介記事「ふしぎを追って−研究室の扉を開く」を、24回にわたって常陽新聞に連載しました。上の記事は平成21年4月1日に掲載されたものです。
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