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農業と環境 No.122 (2010年6月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

論文の紹介: “Dig it ! (掘ってみようよ!)” スミソニアン自然史博物館の土壌標本(モノリス)展示

The “Dig it!” Smithonian Soils Exhibition: Lessons Learned and Goal for the Future.
Drohan, P.J. et al., Soil Science Society of America Journal 74, 607-705 (2010)

“Dig it!”: How an Exhibition Breathed Life into Soils Education.
Megonial, J. P. et al., Soil Science Society of America Journal 74, 706-716 (2010)

米国の大統領府が置かれるワシントンDCにあるスミソニアン自然史博物館で、同館史上初めて土壌モノリスが展示されたのは、2008年7月であった。ワシントンDCの本館での展示は2010年1月に終了し、200万人の来訪者を記録した(写真1)。この展示にかかわった学芸員らが、土壌展開催までの経緯を振り返り、今後の展望について論じた論文2報が、土壌学分野の専門学会誌として国際的に最も権威のある雑誌の一つである米国土壌科学会誌 (SSSAJ) に掲載されたので紹介する。

スミソニアン自然史博物館 土壌展の入り口(写真)

写真1 土壌展入り口(本館2階)

論文1: 土壌モノリス展の構想は、合衆国土壌科学学会 (Soil Science Society of America, SSSA) で1994年に暫定委員会が設置され、スミソニアン自然史博物館との協議を重ねてきた。展示準備は、SSSA とスミソニアン自然史博物館、そして農務省天然資源保全局 (USDA-NRCS) の3者間での協力協定が2001年に締結されてから、ようやく加速した。

2002年から開始した寄付金集めでは、NRCS や SSSA の協力の下、さらに、肥料業界の団体である The Fertilizer Institute の百万ドルの提供を経て、総額3百万ドルを得た。この中には、全米各州を代表する土壌モノリスの展示のために、各州から1万ドルを目標に寄付金を募り、最終的に51万ドルあまりを得たことも含まれている。予算の制約を何とか克服し、SSSA 学会員や NRCS 職員のボランタリーな貢献によって展示にこぎ着けたが、展示デザインの修正は、オープンの1か月前まで続いていた。スミソニアン自然史博物館での土壌展の実現は、SSSA にとっても過去に例を見ない規模でのプロジェクトとして多くの教訓を与えた。今後の展開について、著者は以下のように言及している。(1)土壌が大事だということを認知してもらうための活動の強化。(2)科学政策への土壌の反映。(3)地球科学などの隣接分野とのより一層の協力。(4)土壌情報の提供をどのように行うか。結論として、土壌展 “Dig it” は SSSA が公共教育に果たす役割の潜在的な大きさを知らしめることとなった。

論文2: これまでは、土壌教育の目的は土壌に関する知識を教えることにあり、専門家養成に果たした役割は大きかったが、同時に、一般社会の土壌に対する無関心、とくに初等教育で水や大気とくらべて教えられていないという事実は大きな問題である。公共の土壌教育においては、教えることではなく共感をおぼえてもらうことにあると考える。そこで、展示内容は、12歳から14歳の子供連れの家族をメインターゲットと想定し、土壌学の専門用語を平易な用語に翻訳した。展示会場のデザインには6名のスタッフが携わったが、科学者は学芸員1名であった。このデザインチームの案は、SSSA のデザインチームによってチェックされて改訂を重ねていった。展示物の作製には20名以上の契約者が携わった。身近な土壌として全米から州を代表する土壌をモノリスとして展示し (写真2)、地球規模では、世界の土壌図を見ながらクイズに答え、土壌のさまざまな機能を学ぶコーナーも設置された(写真3)。

各州の土壌モノリスの展示(写真)

写真2 各州の土壌モノリス

世界の土壌の展示(写真)

写真3 世界の土壌

展示へのアクセシビリティは、展示品がモノであることから制約があることは分かっていた。そこで、“Dig it!” の Web バージョンが作製されて、オンラインで閲覧可能となった (2010年3月)。土壌展の評価について、スミソニアン自然史博物館は来訪者の20%が土壌展を見たと、出口調査から把握した。また、スタッフによる来訪者へのインタビューによれば、スミソニアン自然史博物館で土壌の展示が見られるとは思っていなかったが、非常に興味が引かれた、とくに土壌モノリスは、各州の土壌が展示してあり、自分の州の土壌を知る楽しみが得られ、同時に土壌の多様性を知るきっかけとなった、土性の違いが水の浸透速度に影響を与える展示などがおもしろかったなどの回答があったとのことである。

(農業環境インベントリーセンター 大倉利明、文および写真)

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