夏休みの「自由研究」で、子どもと私は、パンをふくらませる 「天然酵母」 を自然の中から見つけることに挑戦しました。
パン酵母は、小麦粉に含まれる糖分を二酸化炭素に変え、小麦粉を水で練って作ったパン種をふくらませる力があります。自然の中にいるさまざまな微生物の中から、パン酵母だけを選び出すためには、パン酵母が好きな餌を使います。
そこでビールに砂糖とレモン汁を入れて圧力鍋で殺菌した 「培地」 を作りました。身近な自然から採集した花や果物などを 「培地」 に入れると、泡がたくさん出てくることがあります。培地の中で、砂糖を二酸化炭素に変える微生物が育っている証拠です。
さらに、先ほどと同じ種類の 「培地」 を寒天で固めたものを作り、泡だった液をその表面に塗りつけると、パン酵母だけが育ちます。この酵母を使ってパンを焼きました。採集した材料によって、パンをふくらませる力や味がさまざまに異なるパン酵母が取れました。
このように、微生物は自然界にある物質を、別の形に変化させる力があります。ある特別な力を持つ微生物を自然界から捕まえる時には、虫や魚捕りと同じように、餌やしかけ、採る場所を工夫します。
私は職場では、プラスチックを分解する微生物を見つけました。プラスチック製品のゴミは、自然界でなかなか分解しません。そこで最近は、自然界の微生物によって分解される 「生分解性(せいぶんかいせい) プラスチック」 というものが作られています。これでプラスチック製品を作れば、ゴミを減らすことができます。畑の雑草を防ぐ黒い色のフィルムや、苗を育てるポットなどは、生分解性プラスチックで作られたものが売られています。
ところが、冬の寒い時期は微生物の活動が少なく、なかなか分解してくれません。こういった時に、生分解性プラスチックをばりばり分解してくれる微生物の力を借りれば、分解を早めることができます。
生分解性プラスチックの化学構造と似ている物質がたくさんある場所には、それを分解できる微生物が住んでいるかもしれません。
ツバキやお茶などの葉の表面は油分で覆われていて、その化学構造はプラスチックに似ています。その葉の上に張り付いている微生物は、雨が降っても落ちないように、少しだけ葉の表面を溶かす力があるかもしれないし、その力はプラスチックも溶かすかもしれないと考えました。そこで、生分解性プラスチックを混ぜ込んで白く濁った寒天培地の上に、いろいろな葉をすりつぶした液を塗りつけてみました。
培地の表面に、生分解性プラスチックを分解して培地を透明に変える微生物が育ちました。この微生物は、畑に使うフィルムなども、とても早く分解する力を持っていました。
(農業環境技術研究所 生物生態機能研究領域 北本宏子)
農業環境技術研究所は、一般読者向けの研究紹介記事「ふしぎを追って−研究室の扉を開く」を、24回にわたって常陽新聞に連載しました。上の記事は平成20年12月10日に掲載されたものです。
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