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農業と環境 No.123 (2010年7月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

米国農学会・米国作物学会・米国土壌学会2009年国際大会 (2009年11月、米国) 参加報告

2009年11月1日から5日まで、米国ピッツバーグで開催された米国農学会・米国作物学会・米国土壌学会2009年国際大会 「景観の中の人間の足跡:植物・土壌科学による持続可能性」 ( 2009 International Annual Meetings “Footprints in the landscape: Sustainability through plant and soil sciences” ) に参加しました。この大会は、米国作物学会、米国農学会と米国土壌学会に関係する研究者が集まる大きな国際会議で、期間中に基調講演、シンポジウム、口頭発表やポスター発表を含む38の分科会でおよそ360のセッションが行われました。

筆者は、科学技術振興機構(JST)の女性研究者支援モデル育成事業「双方向キャリア形成プログラム農環研モデル」の支援を受けて、この大会に参加しました。今回は、それらの中でも、研究者のスキルアップ、キャリアアップに役立てることができると思われる、若手研究者のための論文執筆、研究助成金申請方法に関するセミナー、女性研究者の集まり、私が現在取り組んでいる研究課題に深く関わっている内容について、それぞれ報告します。

論文執筆に関するセミナー

Virginia Tech 大学の Kelly 教授、NewYork 大学の Yanai 教授らにより開催された、論文執筆についての講座に参加しました。

まず、論文執筆の準備について次の4つの項目が説明されました。

(1) 研究の意義: 研究の重要性を、できるだけ多くの人の注意をひくように、簡単にまとめる。

(2) 目的または仮説: 研究を通してどのような問題を解決するかを、質問形式または文章で書く。

(3) 結果: 研究の結果を箇条書きで記述。(4)の結論に関連した結果だけを書く。

(4) 結論: 論文の結論を書く。結論は(1)研究の意義で述べた内容に関連させる。

・ 順番は、(3)結果 → (2)目的 → (1)研究の意義 → (4)結論 が書きやすい。

・ (2)の目的に書かれた研究の課題(research question)に(3)の結果が答えていなければ、(2)の目的を修正する。

・ (4)の結論と(1)の研究の意義が相互に関連していなければ、(1)の研究の意義を修正する。

・ (4)の結論に結果が書かれている場合は、(3)の結果に移す。

・ (1)〜(4)を記入することで、論文の要旨が作成できる。

論文執筆セミナー(グループディスカッション)(写真)

写真 論文執筆セミナーのようす(グループディスカッション)

続いて、論文を投稿する際の留意点について、米国作物学会、米国農学会、米国土壌学会のジャーナルエディターから30分ほど講義があり、さらに30分ほど質疑応答がありました。論文が受理されないおもな理由について、論文査読者の意見が異なる場合の対応のしかたなどについて、会場から質問がありエディターが回答しました。

研究助成申請書の書き方

Purdue 大学の Turco 教授により、研究助成申請書の書き方の講座が開かれました。研究助成を申請することの必要性、助成金に関する情報源、応募状況等について説明があり、続いて、申請書を作成するときの留意点やテクニック、共同研究をするときの留意点、また、審査員の視点について説明がありました。とくに強調されていた点は、次のとおりです。

○ 説得力のある申請書を書くためには、締め切りのぎりぎりではなく、常に余裕をもって行動すること (時間の管理の重要性)

○ 申請書を記入する際には自分の事前データ(Preliminary data)と自分の論文を引用すること

○ 身近なところで公募されている研究助成にすべて応募すること (例:研究所や大学で助成金の公募があればそれに応募する)

○ 審査員に申請書を書くことを意識すること (明確さ、実験計画と目的の一致など)

女性研究者のための昼食会

農学、作物、土壌と環境科学における女性(Women in Agronomy, Crops, Soils and Environmental Sciences、WACSES)委員会主催の昼食会に参加しました。

最初に、2009年度のメンター賞の授賞式が行われました。今年の受賞者は、Kansas 州立大学の Dille 準教授と、産業界で環境問題に関するコンサルタントをしながら兼任教授を務める Soukups 氏らに、委員会の会長である 米国農務省 (USDA) の Eizenga 氏により賞が渡されました。続いて、2人の女性研究者 (Minnesota 大学の Allan 教授、Arkansas 大学の Moldenhauer 教授)から、これまでの研究人生、後輩研究者へのメッセージ、アメリカにおける女性研究者数の推移、または、女性研究者による論文数についての講演がありました。後輩研究者へのメッセージは以下の6点にまとめられます。

・ 研究を続けるにはさまざまな方法があること

・ 良いメンターを見つけること

・ 良い人間関係を築くこと (育児、出産のときに、互いに補うことができる)

・ 大きなものから始めるよりも小さなことから始めること (たとえば、多くの研究者を雇うよりも、人数が少なくても確実に研究を行う。大きな金額の助成金に申請するよりも小額のものに申請する。)

・ 必要があれば、研究所や大学に相談すること (出産後1年かけてフルタイムに戻ることを相談する、フルタイムではなくパートタイムで研究を続けるなど)

・ 配偶者と協力すること

女性研究者のための昼食会:メンター賞の受賞者(写真)

写真 女性研究者のための昼食会:メンター賞の受賞者

土壌由来温室効果ガスの計測・抑制技術に関する情報

米国では、2007年の Energy Independence and Security Act (エネルギー自給・安全保障法)により、2022年までに運輸部門において36億ガロンのバイオ燃料を使用し、そのうち、21億ガロンはセルロース系の燃料であることが求められています。セルロース系エタノールは、セルロースを多く含むバイオマスから作られるエタノールで、原料としてはトウモロコシの茎や稲わら、木くずなどの草木系のバイオマスがあげられます。今回は、これまではほとんどがすきこまれていた作物残渣がバイオ燃料の生産のために持ち出されることになるため、残渣を持ち出すことによる環境や収量への影響についての報告が多くありました。その他、堆肥の施用、不耕起栽培や土壌炭素蓄積量の推定についても報告がありました。

ポスター発表会場のようす (写真)

写真 ポスター発表会場のようす

おわりに

国際的に大きな学会であったにもかかわらず、多くの人と親しくなることができ、有意義な情報を得ることができました。今回得られた情報を今後に生かしていきたいと思います。

レオン愛 (農業環境インベントリーセンター 農環研特別研究員)

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