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農業と環境 No.123 (2010年7月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

論文の紹介: 一般パラメトリック・モデルにおける多重比較

Simultaneous Inference in General Parametric Models.
Hothorn, T., Bretz, F. and Westfall, P.,
Biometrical Journal, 50, 346-363 (2008).

環境研究や生態学研究におけるデータ解析において、近年、一般化線形モデル (Generalised Linear Model) の適用が重要なキーワードとなっている。一般化線形モデルを使った解析を行なう上で、フリーの統計ソフトウェアである R を利用するメリットは大きい。また忘れてはならないのは、一般化線形モデルを用いた逸脱度分析(従来の分散分析を一般化線形モデルに拡張したもの)などに対しても多重性の問題が発生することである。

環境や生態学の研究分野においては、従来の管理された実験計画法に基づくデータではなく、様々な観測データや調査データを扱う必要がある。そのようなデータは、伝統的な分散分析において仮定されている正規分布には従わない場合も多い。また、説明変数と目的変数との関係も線形とは限らない。一般化線形モデルは、このような広い範囲のデータに適用できる手法である。さらに、データ解析においては一連のデータに対して複数の検定を行なったり、複数の信頼区間を構成することがある。このとき、多重性の問題が生じる。すなわち、一回の検定における間違いの確率が α(たとえば 5%)であっても、そのような検定を多数回行なうと、どれかの検定で間違ってしまう確率は α よりもはるかに高くなってしまう。このとき、このような多重性を考慮した解析が必要となる。フリーの統計解析ソフトウェア R は、一般化線形モデルの解析を行なうことができる。また、R 上で実行できる多重推論のためのパッケージとして、multcomp が開発されている。ここでは、multcomp パッケージの開発者らによる統計的多重比較に関する論文を紹介する。

第1節のイントロダクションに続いて、第2節で多重比較の一般的方法が解説されている。まず、複数の未知パラメータの推定値を求める。この部分は、R に用意されている手法を使えばよい。たとえば、一般化線形モデルを当てはめるのであれば glm 関数を使う。次に、この未知パラメータの線形結合による複数の仮説を設定する。従来の多重比較における Tukey の方法や Dunnett の方法などは全て、このような未知パラメータの線形結合によって表わすことができる。本論文、および multcomp パッケージの特徴は、従来の多重比較の問題を、もっと広い範囲のモデルに拡張できるように定式化したことである。第3節で、複数の検定を行なった場合に、どのようにして間違いの確率を制御するかが解説されている。第4節では、伝統的な重回帰分析と一元配置分散分析における仮説の作り方が解説され、さらに一般化線形モデルなどについても触れられている。

第5節で、R での multcomp パッケージの実行の仕方が解説されている。第6節では、伝統的な線形分散分析モデル、および一般化線形モデルを含めて5つの実データに関して、multcomp パッケージを用いた多重比較の解析例が与えられている。

以上が本論文の概要である。multcomp は、R で多重比較を行なうためには極めて有効なパッケージである。しかし、その付属のヘルプ文書は必ずしも分かりやすいとはいえない。本論文の第6節の解析例は、実例に即して解析手順が例示されているので、R を用いて多重比較を行なおうとする研究者にとって有用である。なお一般化線形モデルにおいては、パラメータの推定量が漸近的に(すなわち、サンプルサイズが大きくなったときに)正規分布に従うことが仮定されている。したがって、サンプルサイズが小さいときには、多重比較における間違いの確率が想定した値と異なる可能性があるので注意が必要である。またベータ二項分布を仮定した一般化線形モデルを扱うための、betabin 関数などのような S4 クラス(S 言語の第4版で書かれているパッケージ)の関数の結果オブジェクトでは glht 関数が使用できない場合がある。一般化線形混合モデルを実装するための lme4 というパッケージは S4 クラスだが最新版の lme4 パッケージ中の glmer 関数の結果に対し glht 関数が使用できるようになっており、徐々に S4 クラスへと統合が進み、改善されていくものと考えられる。

(生態系計測研究領域 大東健太郎・三輪哲久)

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