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農業と環境 No.124 (2010年8月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

論文の紹介: 森林土壌の糸状菌の多様性は意外に高い−次世代シークエンサーによるDNA解析

454 Pyrosequencing analyses of forest soils reveal an unexpectedly high fungal diversity.
M. Buée and M. Reich et al..
New Phytologist 184, 449-456 (2009)

土壌には1gあたり10〜1010個体の微生物が存在するが、その99%以上は培養が困難なことからほとんど研究の対象とはならず、10数年前までは土壌に生息する微生物のほとんどは手つかずの状態であった。ところが、近年の分子生物学的手法の著しい進歩により、現在では、培養を経ないで土壌中の微生物から直接DNAを抽出し解析できるようになり、土壌にどのような微生物が生息しどのような働きをしているかを明らかにしようとする研究が盛んに行われるようになってきた。近年、次世代シークエンスと呼ばれる新しいタイプの塩基配列解析法が開発され、短時間に膨大な数の塩基配列の解析が可能になった。454 パイロシークエンス解析は、この次世代シークエンス解析の草分け的存在で、ゲノム解析、遺伝子発現解析など、さまざまな解析に用いられている。ここでは、森林土壌の糸状菌の多様性をこの 454 パイロシークエンス解析で調べた論文を紹介する。

土壌に生息する微生物を大きなグループに分けると、細菌(バクテリア)と糸状菌(カビ)に大きく分けることができる。土壌中の数としては細菌が糸状菌より100倍ほど多いが、大きさでは細菌が2μm以下の単細胞であるのに対し、糸状菌は2μm以上と大きく、さらに生育している糸状菌の多くは、多細胞がつながった(あるいは多核の)長い糸状の形態をとる。土壌中に存在する細菌と糸状菌の総体積は、その存在数とは逆に細菌よりも糸状菌のほうが大きいことが報告されている。糸状菌は陸域生態系において分解者、共生菌、あるいは病原菌として重要な役割を果たしているが、その多様性については必ずしも十分に調べられていない。これまでに次世代シークエンサーを用いて糸状菌の多様性解析を行った例はなく、筆者らは、初めて 454パイロシークエンサーを用いた解析を試みた。

フランスにおいてブナの自然林を部分的に6か所伐採(各 1,000 m)し、6種類の樹木(ブナ、ナラ、ヨーロッパトウヒ、ベイマツ、ヨーロッパクロマツ、コーカサスモミ)を別々に植栽した(1976年)場所、すなわち植生の異なる6種類の森林土壌を研究対象とし、それぞれの土壌から直接DNAを抽出した。抽出したDNAから、ITS領域と呼ばれる糸状菌の分類に一般的に用いられる塩基配列を、DNA合成酵素で特異的に増幅(PCR増幅)し、454パイロシークエンス解析を行った。

一度の解析で、6種類の土壌それぞれについて 25,000 〜 35,000 個の配列データが得られた。97%以上相同な配列を1種類と数えると、土壌ごとに 600 〜 1,000 種類の配列が検出された。しかし、これですべてというわけではなく、森林土壌には 1,350 〜 3,400 種類の糸状菌が存在すると予測された。得られた配列のうち、その8割は子嚢(しのう)菌門 (Ascomycota) および担子菌門 (Basidiomycota) を含むディカリア亜界 (Dikarya) に分類された。その中ではキノコの仲間を含むハラタケ綱 (Agaricomycetes) がもっとも多くを占めたが、その多くはこれまでに培養されたことのない菌群であった。

6種類の森林土壌における多様性を門レベルで比較すると、担子菌門の割合がナラ林土壌では65%を占めたのに対し、他の土壌では30〜40%であった。また、接合菌門の割合はコーカサスモミ林土壌で17%と他の土壌の3倍以上であった。

1土壌あたりおよそ 1,000 種類の配列が検出されたにもかかわらず、取得配列データの73%は26種類の配列に分類された。その一方、残りの配列データは非常に多様で、1.8%の配列データ( 30,000 配列データとすると 540 配列データ)には同じ種類の配列(97%以上相同な配列)が検出されなかった。このことは、森林土壌の糸状菌は非常に多様であるものの、その多くは少数派として存在することを意味している。

このように、454 パイロシークエンス解析は土壌糸状菌の多様性解析の大きな推進力となることが示された。

(生物生態機能研究領域 酒井 順子)

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