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農業と環境 No.128 (2010年12月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

第13回国際ダニ学会大会 (8月 ブラジル(レシフェ)) 参加報告

2010年8月23日から27日にかけてブラジルの港湾都市、レシフェにて開催された、第13回国際ダニ学会大会 (XIII International Congress of Acarology (最新のページに変更しました。2012年1月) 、以下 ICA ) に参加しました。

ICA は、ダニ類を対象とした研究に携わっている科学者が、世界各国から集まり、研究に関する議論や親ぼくを深めるために開催される国際会議です。4年に1回のペースで開催されており、前回はオランダのアムステルダム、その前はメキシコのメリダと、毎回異なる国で開催されています。次回は京都で開催される予定となっています。

ダニは、8本の脚をもち、そのほとんどが体長 0.1〜0.75 mmと肉眼で存在がやっとわかる程度の大きさの節足動物です。分類学的には、「節足動物門」−「クモ形綱」の下にある「ダニ目」に属しています。「目」というと、チョウ目やトンボ目など、分類学上それほど大きいグループではないように感じられるかもしれませんが、ダニ目には、吸血性のマダニ類や貯穀害虫のコナダニ類、農業害虫のハダニ類、小型の節足動物を捕食するカブリダニ類、腐食性であり近年環境指標としても注目されているササラダニ類、カブトムシなど昆虫に寄生するトゲダニ類がいるなど、生活環境でいえば「昆虫綱」全体に匹敵するほど多様な種を含む分類群です。ICA には医学系や農学系など、さまざまな分野の研究者が集まるため、同じ分野の研究者同士で議論を深めるだけでなく、他分野で行われている世界レベルの研究を知る良い機会でもあります。

今回の大会では、28のシンポジウムと、12のテーマにまとめられた口頭発表、ポスター発表、そして Flechtmann 博士によるプレナリーレクチャー(基調講演)がありました。

私は、オーストリアの研究者、Schausberger 博士と Walzer 博士が企画したシンポジウム 「Behavioral Ecology of Mites (ダニ類における行動生態学)」 に参加して、「Variation in nest sanitation behavior among social spider mites of the genus Stigmaeopsis (スゴモリハダニ属における社会性ハダニのサニテーション行動の変異)」 というタイトルで発表しました。私は現在、「社会性ハダニにおける攻撃性の異なる2型の分化・維持機構の解明」 という 日本学術振興会(JSPS)の研究課題のもとで、ススキやササに寄生し巣網をつくって共同営巣する一風変わったアジア固有の社会性ハダニ(スゴモリハダニ属)を対象として、行動や生態を調査しています。今回の大会参加の一番の目的は、この研究を世界にアピールすることでしたが、近年の害虫防除やダニ類における遺伝解析技術に関する情報を入手したり、海外の研究者と知り合いになったりなど、それ以上の成果を得ることができました。

第8回国際ダニ学会大会の会場(Recife Palaceホテル).JPG(写真)

写真 第8回国際ダニ学会大会の会場(Recife Palaceホテル)

佐藤の講演(写真)

写真 佐藤の講演

今回、私が ICA に参加できたのは、文部科学省の女性研究者支援モデル育成事業 「双方向キャリア形成プログラム農環研モデル」 の一環による海外出張支援のおかげでした。この事業に関連して、今回の大会やこれまで参加した国際会議について気づくことは、海外、とくにヨーロッパ圏では、女性研究者の比率が高いこと、そして男女を問わず、子どもを連れて会議に参加する人が多いことです。この大会においても、会場から一歩外にでた廊下や休憩所では、研究者が子どもを抱っこしたまま立ち話をする姿や、子どもがソファーに座って親を待つ姿をよく目にしました。子どもたちは、通りすがりの私たちに愛らしい笑顔を振りまいてくれるので、みんなのアイドルとなっていました。懇親パーティーにもその子たちは参加していて、催されたダンス大会では大人に混じって上手に踊っている子どももいました。

近年は、日本国内で開催される学術会議においても、託児所を設置する学会が増えつつあり、子どもをかかえたママさん研究者も学会に参加しやすい環境が整いつつあります。ですが、会議に子ども同伴で参加することに対する感覚は、やはり海外と日本ではいまだに隔たりがあるように感じられました。

(生物多様性研究領域(JSPS特別研究員) 佐藤幸恵)

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