2010年11月5日(金曜日)、つくば国際会議場において、研究成果発表会 「食の安全を求めて〜農場から食卓まで〜」 が開催されました。
近年わが国では、食品安全行政にリスク分析の考え方を導入して、農畜水産物の安全確保に努めています。このような中、農林水産省では、委託プロジェクト 「生産・流通・加工工程における体系的な危害要因の特性解明とリスク低減技術の開発」(平成20〜24年度) を実施し、生産から流通加工まで、農畜水産物において重要度の高い危害要因 (化学物質、 かび毒(*1)、 病原微生物) について、危害要因に関する科学的なデータの整備・解析等のための手法・技術を開発するとともに、さまざまなリスク低減技術を開発しています。
この研究成果発表会は、このプロジェクトのアウトリーチ活動の一環として行われたもので、400名近くの方に参加いただきました。
午前中に豊橋技術科学大学の三枝正彦氏や千葉大学の松田友義氏による基調講演と、プロジェクトの概要紹介があり、午後には9題のミニ講演、21テーマの「エゴチャット」(*2)、38題のポスター発表が行われました。
*1: ここでは赤かび病のデオキシニバレノール(DON)やニバレノール(NIV)を扱います。
*2: エゴチャットは、スライドショーに解説をコンピュータの音声でつけたものです。
開催日時: 2010年11月5日(金曜日)
開催場所: つくば国際会議場(中ホール200、中会議室201・202)
共催: 農林水産技術会議事務局、 (独)農業環境技術研究所、 (独)農業・食品産業技術研究機構、 (独)水産総合研究センター
参加者数: 390名
(行政部局:39名、 国公立試験研究機関:48名、 独立行政法人:81名、 大学:24名、 民間企業等:160名、 一般市民:12名、 報道関係:6名、 その他:20名)
講演者および講演題目
【基調講演】
「土壌科学と有害化学物質」 三枝正彦(豊橋技術科学大学)
「食品安全確保におけるGAPの役割」 松田友義(千葉大学)
【プロジェクトの概要紹介】化学物質チーム(與語靖洋)、 かび毒・病原微生物チーム(川本伸一)
【ミニ講演】 9題 [ヒ素・カドミウム:2、かび毒:2、POPs:1、病原微生物(生野菜、畜産、水産、検出・制御):各1]
【エゴチャット】 各課題の概要またはトピック。計21テーマ。
【ポスター発表】 38題 [ヒ素・カドミウム:6、POPs:6、かび毒:5、病原微生物(生野菜:2、畜産:3、水産:3、検出制御:5)、全体:8]
概要
基調講演では、豊橋技術科学大学の三枝正彦氏が、「土壌科学と有害化学物質」 と題して、土壌科学の始まり、土壌の多面的機能、土壌の物理・化学・生物学的性質やコロイド組成と有害化学物質との関連、さらにはペドロジーとの関連性にも踏み込んだ講演をされました。三枝氏は、わが国では10月の第1土曜日を「土の日」、地域によって11月を「土」の月間、世界では12月5日を「土の日」としていることも紹介するとともに、生きている“地球の皮膚”としての土壌からの有害化学物質のリスク管理に取り組むことが今後の重要な課題の1つであることを伝えました。
続いて、千葉大学の松田友義氏が、「食品安全確保におけるGAPの役割」 と題して、GAP(Good Agricultural Practice、適正農業規範)と食品安全性との関係を中心に、安全とリスク、欧米のGAPのあり方や HACCP(*3) との関連、国内のGAPの現状などについて話題提供されました。松田氏は、食品の安全性はリスクが存在することを前提として考えなければならないこと、またGAPはより安全な食品を供給するための基盤であることを述べるとともに、生産者から消費者まで、食の安全確保のために必要な情報は何かをしっかり見きわめて、GAPを含む各種制度や仕組みをつくることの大切さを伝えました。
*3: HACCP=Hazard Analysis Critical Control Point(危害分析重要管理点の略)で、1960年代に宇宙食の安全性確保のために米国において開発した食品衛生管理手法のこと。
ミニ講演は、1テーマが5分という短い時間でしたが、本プロジェクトの全体のイメージを描くにはとてもよい機会でした。同様に、終日放映されたエゴチャットは、画面上のキャラクターが説明する形でスライドショーを見ることができるユニークなシステムですが、21のトピックすべてとてもわかりやすいものでした。ポスター発表では、さらに具体的に、まさに “農場・漁場から食卓まで” 食の安全に関するさまざまな研究が紹介され、熱心に議論されました。
今回は、食品関連のイベントと同時開催されたこともあり、多くの方に参加いただきました。アンケート結果からも、参加者の期待の大きさがわかり、わが国における食の安全にかかわる研究の緊急性・重要性が再認識されるとともに、今後ともアウトリーチ活動を積極的に進める必要性を痛感しました。
写真1 基調講演(三枝正彦氏)
写真2 基調講演(松田友義氏)
写真3 会場のようす