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農業と環境 No.129 (2011年1月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

本の紹介 299: 太陽系大紀行、野本陽代著、岩波書店(2010年10月) ISBN978-4-00-431279-6

2010年の科学関係のトップニュースといえば、どのマスコミも小惑星探査機 「はやぶさ」 の7年半ぶりの帰還であろう。小さな探査機が長い旅の末に小惑星イトカワに着陸し、ふたたび広い宇宙を旅して地球に試料を持ち帰ったのである。「史上、もっとも愛された探査機」 とよばれ、カプセルの展示にはおおぜいの人が押し寄せた。大いなる神秘である宇宙を知ることは、地球を知ることであり、そのことはまた、地球上の生命の存在の謎を探ることにもつながる。

今までに多くの探査機が惑星や衛星などを訪れ、その姿を伝えてきた。本書は 「太陽系大紀行」 のタイトルにあるように、太陽系探査の歴史と、そこでわかった天体の姿を紹介する。それはまさに驚きの連続である。

本書は3部からなり、第1部は 「宇宙への船出」 である。世界最初の人工衛星は、1957年に打ち上げられたソ連のスプートニク1号である。激しい米ソの競争において、当初はソ連がリードした。米国が人工衛星の打ち上げ競争に負けたのは、陸・海・空軍がそれぞれバラバラの人工衛星計画をもつなど、内部の力が分散していたためといい、その教訓から米国は航空宇宙局(NASA)を立ち上げる。

初めて地球を外から見て 「地球は青い」 と語ったユーリ・ガガーリンの地球1周は、1961年である。同じ年に米国大統領に就任したジョン・F・ケネディは、月にヒトを送り込むアポロ計画を打ち出す。そして1968年12月21日、3人の宇宙飛行士が乗った初の有人探査機アポロ8号が打ち上げられ、人類が月に立った。膨大な予算をかけたアポロ計画は様々な技術や新素材を生み出し、それらは今でも我々の暮らしに役立っている。

その後、惑星の探査のために、金星探査機(マリナー2号、1962年)やベネラ、火星探査機(マリナー、1961年〜71年)、マルス、木星探査機(パイオニア10号、1972年)、水星探査機(マリナー10号、73年)などが打ち上げられ、地球上からは知りえなかったそれら惑星の姿を明らかにする。

こうした惑星探査の中でもっとも長期的な飛行が、惑星グランドツアー計画である。1977年に、木星、火星、天王星、海王星の4惑星がほぼ一直線に並ぶという現象を利用して、一つの探査機でいくつもの衛星を訪れることをねらい、ボイジャー1号、2号が打ち上げられた。ボイジャーはこれら4つの惑星を順次訪れ、多くの新たな発見をもたらした。ボイジャーは1989年海王星へ最接近した後、太陽圏から離脱しつつあり、2030年ころまで、外から見た太陽系の様子を送り続ける予定という。2030年というと、打ち上げから57年である。

ボイジャー2号は、天王星、海王星へ訪れた唯一の探査機である。海王星の衛星トリトンは、窒素の氷などでおおわれ、表面温度はマイナス236度。主に窒素からなる薄い大気におおわれ、マイナス200度の窒素ガスの噴煙を噴き上げる火山が存在するという。想像すら難しい。

太陽系探査は、同時に地球を知る旅であり、地球外に生命を探す旅でもある。1975年には火星着陸に成功し(バイキング1号)、土壌(レゴリス)中に微生物が存在するかどうか調査したが、発見できなかった。しかしその後2005年の火星探査では、氷の存在が強く示唆され、生命をはぐくむ環境が存在した可能性がありそうだ。また、土星の衛星タイタンは、太陽系の衛星の中で濃い大気をもつ唯一の衛星であり、気圧は地球の約1.5倍。そのほとんどが窒素でアルゴンやメタンを含み、生命に必須な構成要素が存在するという。

第3部 「私たちの太陽系」 には、現在わかっている太陽系の天体に関する知識がまとめられている。太陽系の衛星や惑星の姿はあまりにも多様であり、地球の今日の姿は、単に太陽からの距離が適当であったからでき上がったのではないことがわかる。宇宙探査は膨大な資金が必要で、常に予算との議論が起こる。そのことはともかく、地球の環境とそこに住む生命を考えるとき、太陽系を知ることは必要であろう。

目次

第1部 宇宙への船出

第1章 月をめざす

第2章 宇宙人へのメッセージ

第3章 ボイジャーのはるかな旅

第2部 惑星の素顔に迫る

第4章 本格派探査機の登場

第5章 21世紀の宇宙探査

第3部 私たちの太陽系

第6章 大地をもつ者たち

第7章 ガスにおおわれし者たち

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