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農業と環境 No.133 (2011年5月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

本の紹介 305: 人類進化の700万年、 三井 誠 著、 講談社(2005年9月)(講談社現代新書) ISBN4-06-149805-3

人類とは、「哺乳(ほにゅう)綱霊長目ヒト科」 のことで、「約700万年前にチンパンジーとの共通祖先から枝分かれして、現生人類のほうに進化を始めた一連の動物」 である。本書は、人類誕生から進化にまつわる数々の謎について、解説する。現代に生きる現生人類が誕生したのは15〜20億年前とされているが、そこに至る道のりも平たんではなかったようである。途中で絶滅した人類は、一説によると20種類にもおよび、「現生人類は、複数の枝分かれの中で現代に生き残った一つの枝に過ぎない」 ことになる。

人類のアフリカでの進化については、いわゆるイーストサイド・ストーリーが知られている。大地溝帯の活動によって山々ができ、アフリカ東部は乾燥化が進み森林が減少、そこで人類は森林での樹上生活から草原における地上での生活に移行し、2足歩行の人類へと進化した。一方、西側の森に残った類人猿はチンパンジーに進化した、というのである。しかし、化石などの証拠が集まるにつれ、そう単純ではないことがわかってきている。なぜ人類だけが直立2足歩行をするようになったのか。さまざまな仮説が出されているが、人類の進化における最大の謎の一つである。進化と環境の変化がたまたま重なった、偶然の結果であるのかもしれない。

180万年前とされている人類の出アフリカを可能にしたのは何であろうか。石器を使い、肉食をするようになり、常夏の大地を離れて高緯度地方の冬も乗り切れるようになったからだという説がある。人類が火を使えるようになったのは、早ければ150万年前、遅くとも35万年前であり、大昔の人類は洞くつに住んでいたとイメージしがちだが、肉食動物に襲われる危険が大きいため、火を使えるようになってはじめて洞くつに住めるようになったといわれている。

約20万年前〜3万年前にヨーロッパで生きていた人類であるネアンデルタール人は、旧人の仲間であり、一方、クロマニヨン人は現生人類である。4万〜3万年前に両者は共存していたらしいが、両者は遺伝的な交流はなかったと考えられている。なぜネアンデルタール人が3万年前に絶滅したのかは謎である。

約1万年前の農耕の始まりについては、当時の寒冷化により食料が不足したことから始まったという説と、定住村落にリーダーが生まれて社会構造が変化したことで始まったという説があるが、1990年代半ばまでは環境説が、最近は社会構造説がはやりだという。明確にどちらが原因だと割り切れるものではないのかもしれない。

著者は新聞社の科学部に所属している。国内外の多くの研究者にインタビューし、「現代科学が捉える最新の人類史の一端」 を伝えることをねらったという。700万年を概観し、人類の進化の不思議に思わず引き込まれる。この分野は進歩が目覚ましく、今後も新しい発見が続くであろう。

目次

第1章 人類のあけぼの

第2章 人間らしさへの道

第3章 人類進化の最終章

第4章 日本列島の人類史

第5章 年代測定とは

第6章 遺伝子から探る

終章 科学も人間の営み

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