2011年4月11日から15日にかけて 「Nitrogen and Global Change: Key findings - future challenges」( http://www.nitrogen2011.org/ )が英国エジンバラ市において開催された。これは、人間活動に伴って放出される窒素化合物がもたらす、さまざまな環境問題に関する科学的知見を持ち寄り、科学者や政策決定者などが議論することを目的とした会議である。会議は、政策決定者を中心としたワークショップと、最新の科学的知見を集めた科学会議から構成され、また、欧州の窒素問題に関する最新の知見および政策をまとめた 「The European Nitrogen Assessment」 の出版を祝うものでもあった。
Nitrogen and Global Change には356名の科学者や政策決定者が参加した。欧州における窒素関連プロジェクト ( NitroEurope や NinE ) が主催した会議である性質上、欧州における取り組みが話題の中心ではあったが、科学会議には世界各地からも多くの発表が寄せられた。農環研からも、つくばみらい FACE を利用した窒素循環研究について発表を予定していたものの、2011年3月の東日本大震災および引き続く原発事故の影響により参加を断念せざるを得なかった。
欧州では、大気汚染に由来する多様な環境問題に取り組むために1970年代から国連欧州経済会議・長距離越境大気汚染条約に基づくさまざまな活動 (モニタリング、モデリング、政策決定) が行なわれてきた。農業や工業活動などに伴って発生する窒素化合物がもたらす環境問題 (大気質、水質、気候変動、生物多様性など) に対しても、熱心な研究が進められてきた。欧州は世界でもっとも盛んに窒素関連研究が行われている地域と言っても過言ではないだろう。
Nitrogen and Global Change の開催にあわせて出版された The European Nitrogen Assessment は、その欧州における最新の科学的知見の集大成である。また、政策的取り組みにも多くのページを割いており、具体的な窒素管理政策および将来への挑戦についてまとめられている。これらの情報は、日本およびモンスーンアジアにおける窒素関連研究および窒素管理においても大いに参考となるだろう。
目次 (仮訳)
1章 われらが継承してきた窒素問題を評価する M.A. Sutton ほか
第1部 欧州における窒素問題の現状
2章 世界から見た欧州の窒素問題 J.W. Erisman ほか
3章 食料・繊維・工業生産への窒素の便益 L.S. Jensen ほか
4章 現在の欧州の政策における窒素 O. Oenema ほか
5章 窒素の科学と政策の統合への挑戦−欧州窒素評価 M.A. Sutton ほか
第2部 生物圏における窒素過程
6章 陸域生態系における窒素諸過程 K. Butterbach-Bahl ほか
7章 陸水生態系における窒素諸過程 P. Durand ほか
8章 沿岸と海洋生態系における窒素諸過程 M. Voss ほか
9章 大気における窒素諸過程 O. Hertel ほか
第3部 多様な空間スケールにおける窒素フローとゆくえ
10章 欧州全域の農業システムの窒素フロー S. Jervis ほか
11章 田園の窒素フローとゆくえ P. Cellier ほか
12章 都市の窒素フローとゆくえ A. Svirejeva-Hopkins ほか
13章 欧州の集水域から沿岸域への窒素フロー G. Billen
14章 欧州の反応性窒素の大気輸送と沈着 D. Simpson ほか
15章 欧州全域の陸域窒素収支の地理的変動 W. de Vires ほか
16章 欧州規模の窒素フラックスを統合する A. Leip ほか
第4部 重要な社会的脅威に関する窒素管理
17章 欧州の水質への脅威としての窒素 B. Grizzetti ほか
18章 欧州の大気質への脅威としての窒素 J. Moldanova ほか
19章 欧州の温室効果バランスへの脅威としての窒素 K. Butterbach-Bahl ほか
20章 欧州の陸域生物多様性への脅威としての窒素 N.B. Dise ほか
21章 欧州の土壌質への脅威としての窒素 G. Velthof ほか
第5部 欧州の窒素政策および将来の挑戦
22章 環境中の窒素のコストと便益 C. Brink ほか
23章 窒素管理の統合的アプローチを開発する O. Oenema ほか
24章 欧州における窒素の将来シナリオ W. Winiwarter ほか
25章 欧州の窒素政策と国際条約・政府間組織との調整 K. Bull ほか
26章 欧州の窒素問題への社会の選択と発信 D.S. Reay ほか
林 健太郎 (物質循環研究領域)