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農業と環境 No.134 (2011年6月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

農業分野の温室効果ガスに関するグローバル・リサーチ・アライアンス(2)

GRAロゴ(GlobalResearch Alliance on Agricultural Greenhouse Gasses)

「農業と環境」先月号(No. 133,2011年5月1日) に引き続き、農業分野の温室効果ガスに関する グローバル・リサーチ・アライアンス(GRA) のこれまでの活動と組織構成についてご紹介します。

GRAの設立

2009年12月にコペンハーゲンで開催された第15回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP15)は、当初目標とされていた京都議定書第一約束期間が終了する2013年以降の次期枠組みについて最終的な合意に至ることはできず、少々、期待はずれの結果に終わりました。しかし、毎年の締約国会議においては、世界の政策担当者と研究者が一堂に集まる機会を活用した数多くのサイドイベントが同時に開催され、問題解決に向けた努力が行われています。

GRAの設立に関する会合もそのサイドイベントのひとつとして、COP15 会場内の会議室において、17か国の代表が出席した閣僚級ラウンドテーブル会合が開催されました。この会合は、ニュージーランドのティム・グローサー( Tim Groser )貿易大臣(兼 気候問題担当副大臣)の呼びかけからはじまり、賛同の意を表明した世界の主要国との間での議論が結実したものです。ニュージーランドは、とくに農業由来の温室効果ガス排出割合が高いため、科学技術による排出削減に積極的な姿勢を示しています。ほかの参加国も、農業分野における温室効果ガス研究の科学的・社会的重要性を認め、GRAへの積極的参加を表明したことから、この会合において、わが国を含む21か国の閣僚共同宣言としてGRAの設立が示されました。

GRAの目的

GRAは政府単位で加盟する国際研究ネットワークであり、その目的を農業生産における温室効果ガス排出の削減や土壌炭素貯留の可能性に寄与することとしています。GRA全体の活動の基本方針を定めた「憲章」では、世界の食料安全保障と持続的開発のために農業由来の排出削減を実行することの重要性が明記され、次に掲げる事項のために国際協力と投資の増加をめざすことが示されています。

・ 農民による知識共有の改善

・ 適応と緩和の取組に対する相乗効果の促進

・ 温室効果ガス排出と土壌炭素貯留を計測・評価するために必要な科学技術の開発

・ 科学者の間での情報交換の促進

・ パートナーシップの構築と交流による世界の科学者の知見の共有支援

・ 農民、農民組織、産業界・民間、国際及び地域研究機関、基金、NGO等とのパートナーシップの構築

GRAの組織構成

GRAは、加盟国の研究者と政策担当者が法的拘束や資金提供の義務なしに参加できる、任意のイニシアチブ( voluntary initiative )であり、2011年5月現在で以下の33か国が正式に加盟しています。

アジア:インド、インドネシア、日本、マレーシア、パキスタン、フィリピン、タイ、ベトナム

ヨーロッパ:デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、イタリア、アイルランド、オランダ、ノルウェー、ロシア、スペイン、スウェーデン、スイス、英国

アフリカ:ガーナ、南アフリカ

南北アメリカ:アルゼンチン、カナダ、チリ、コロンビア、メキシコ、ペルー、米国、ウルグアイ

オセアニア:オーストラリア、ニュージーランド

このほか、以下の国と地域がオブザーバーとして会議に出席しています。

ブラジル、中国、EC、韓国

理事会と事務局のもとに3つの研究グループ(畜産、農地、水田)がある。研究グループを横断するように、2つの横断的ワーキンググループ(炭素窒素循環、インベントリー)が形成されている。

図1 GRAの組織構成とコーディネート国

GRAの組織は、現時点では、図1に示すように、理事会、事務局、3つの研究グループ、2つの横断的(cross-cutting)ワーキンググループにより構成されています。理事会(the Council)では加盟各国が1議席を有し、年1回開催される会合において全体の問題を決議します。GRAの研究活動は畜産、農地(水田以外)、および水田の3つの研究グループにおいて推進され、ニュージーランドに置かれた事務局が全体の調整と事務的補助を担当しています。3つの研究グループそれぞれにコーディネート国が指定され、畜産研究グループはオランダとニュージーランドが、農地研究グループは米国が、そして水田研究グループはわが国が指名され、研究グループ内での活動をリードしています。また、各研究グループ共通の課題を扱う横断的ワーキンググループが設置され、その最初の活動として、炭素窒素循環とインベントリーの課題が提案されました。これら2つのワーキンググループは、それぞれ、フランスとオーストラリア、カナダとオランダが共同コーディネート国として指名されています。各研究グループについては、各国が窓口となる研究機関を登録することとなっており、わが国から、畜産は(独)国際農林水産業研究センターが、農地および水田は(独)農業環境技術研究所が登録されました。

最初の1年間の活動

Te Papa の正面外観(写真)

図2 GRA第1回高級事務レベル会合が開催されたニュージーランド国立博物館 “Te Papa”

開幕セレモニーの会場(写真)

図3 GRA第1回高級事務レベル会合の開幕セレモニー

コペンハーゲンでの COP15 サイドイベントにおけるGRA設立閣僚共同宣言を受けて、2010年4月に第1回の高級事務レベル会合がニュージーランドの首都ウェリントンにある国立博物館 “Te Papa” で開催されました(図2および3)。26か国より約75名の事務担当者および研究者と政策担当者が参加した3日間にわたるこの会合は、マオリ族の伝統セレモニーとジョン・キー( John P. Key )ニュージーランド首相のあいさつではじまり、GRAの目的、組織体制、活動計画に関する議論が行われました。その結果、最初の1年間の活動計画が提示され、各研究グループそれぞれが同年の秋に第1回の会合を持ち、各国の研究の現状や所有している情報の確認作業( stock-taking )作業から優先度の高い研究課題を抽出することが計画されました。

その計画にしたがって、水田研究グループは、農業環境技術研究所の主催で、9月1−3日につくばで 「水田管理と温室効果ガス発生・吸収に関する MARCO/GRA 合同ワークショップ」を開催しました ( 農業と環境 No.126 )。ここでの議論からは、各国の現場で適用可能な温室効果ガス排出緩和技術を開発すること、各国の水田温室効果ガスインベントリを整備することなど、優先度の高い研究課題が抽出されました (このワークショップでの発表資料等 を閲覧できます。)。畜産研究グループ(10月、カナダ・バンフ)および農地研究グループ(11月、米国・ロングビーチ)においても、同様に第1回の研究グループ会合が開催されています。また、8月にはアルゼンチンにて、事務担当者が参集して運営委員会( Governance group )会合が開催されました。

GRA第2回高級事務レベル会合(写真)

図4 フランス・ヴェルサイユ国際会議場で開催されたGRA第2回高級事務レベル会合

第2回高級事務レベル会合中の昼食(写真)

図5 第2回高級事務レベル会合中の昼食(畜産、農地、水田の生産物がそろっている)

そして、最初の1年間の活動のとりまとめとして、2011年3月には、フランス国立農業研究所(INRA)を運営担当として、ヴェルサイユにて 第2回高級事務レベル会合 が開催されました(図4および5)。この会合には、32か国と地域から約200名の参加者があり、全体で5日間の日程で行われました。まず、3つの研究グループにおいて、1日半のグループ別会合を行い、短期的および中長期的な行動計画( Action Plan )が策定されました。行動計画は、引き続き開催された研究グループ全体会合、および全体会合にて承認されました。同時に、運営委員会においてアライアンス憲章の草案が検討され、ほぼ最終的な合意が得られました。

以上の最初の1年間の活動を受け、この6月24−25日に、イタリアのローマで、加盟各国の担当大臣らの参加による閣僚サミットが開催されます。ここでは、アライアンス憲章へのサインセレモニーと記者発表、および第1回理事会の開催が予定され、いよいよ、GRAは、その本格的な活動段階に進むことになります。

次回は、GRAの研究グループと横断的ワーキンググループにおけるこれまでの活動成果と今後の計画についてご紹介します。

八木一行(研究コーディネータ)

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