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農業と環境 No.134 (2011年6月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

本の紹介 307: 東アジア四千年の永続農業<中国・朝鮮・日本> (上・下) (図説中国文化百華11・12)、
F・H・キング 著、 杉本俊朗 訳、
農山漁村文化協会 (2009年1月)
ISBN978-4-540-03094-9/ ISBN978-4-540-03100-7

米国ウィスコンシン大学の土壌学者、F・H・キング教授が、1909(明治42)年の半年にわたって、当時の中国、朝鮮、日本を訪れ、帰国後の1911年にその農業視察をもとに著した原著 ( Farmers of Forty Centuries or Permanent Agriculture in China, Korea and Japan ) が出版されて、今年でちょうど百年を迎える。ここに紹介する本書は、その後の長い時間とさまざまな経緯を経て、2009年に出版されたその翻訳書である。

19世紀末から20世紀初頭にかけての米国では、西部の豊かな処女地に求めた農地開発も進み、すでに耕地では土壌肥沃度(ひよくど)の収奪と表土の浸食による激しい土地の荒廃と砂嵐をもたらしていた。そのようすは、有名なスタインベックの「怒りの葡萄」(1939年)に描かれている通りである。当時のアメリカ農業の困難な現実から、キング教授は東アジア三か国への旅行の目的を、「われわれは、二千年あるいは三千年さらに四千年にもわたって、なお現在これらの三国に住んでいるが如き稠密な人口の維持のために、その土壌に十分な生産をなさしめることが、いかにして可能であるかを知りたいと願った」 と序文で語っている。

こうした思いを抱いて訪れた三か国では、河口デルタに運河とクリークを築き、畦(あぜ)を巡らした水田に、過度なまでの「集約耕作」と「廃物利用」、「時間の節約」に表現されるアジア農業が展開されていた。この人力・多労と人畜糞(ふん)にいたる地域有機資源の投入、多毛作や輪作・間作による耕作システムは、将来のアメリカ農業にとって顧みるべき点が多いというのが、本書の結論である。

本来、水を引くことで絶えず養分を補給し、土壌と有機物を守り、養分吸収を助ける水田耕作のシステムは、畑作に比べて持続的であることはいうまでもない。水の中でよく育つ稲と水田のすばらしいしくみは、数千年にわたって安定した米の生産を可能にしてきた。本書を通して、百年も前にこの持続的なしくみが、農民によって守り高められていることを記述した見識にふれると同時に、改めて東アジアモンスーン地帯に成立した水田農業の確かさを思い起こすことにもつながる。

中国から朝鮮を経て、門司に上陸したキング教授は、九州から関西、東海、関東の農村を巡回して、各県の農事試験場を訪ね、東京西ヶ原に農商務省農事試験場(農業環境技術研究所の前身)にも土壌試験の視察に立ち寄っている。本書は、教授の東アジアへの農業視察の思いと考えに接しながら、百年前の中国、日本の農村と人々のくらしをたどる紀行としても貴重な読み物となっている。

目次

(上巻)

第1章 まず日本へ

第2章 中国の墓地

第3章 ホンコン、広東へ

第4章 西江をさかのぼる

第5章 運河開鑿の程度と耕圃の整地

第6章 民衆の若干の慣行について

第7章 燃料問題、建築資材および織物原料について

第8章 近郊踏査

第9章 廃物の利用

第10章 山東省にて

(下巻)

第11章 東洋人は時間と空間を集約的に使う

第12章 東洋の稲作について

第13章 養蚕業

第14章 茶業

第15章 天津付近

第16章 満州と朝鮮

第17章 再び日本へ

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