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農業と環境 No.135 (2011年7月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

農業分野の温室効果ガスに関するグローバル・リサーチ・アライアンス(3)

GRAロゴ(GlobalResearch Alliance on Agricultural Greenhouse Gasses)

「農業と環境」5月号(No. 133,2011年5月1日)、6月号(No. 134,2011年6月1日)に引き続き、農業分野の温室効果ガスに関する グローバル・リサーチ・アライアンス(GRA) の研究活動について、水田研究グループを中心にご紹介します。

「農業と環境」6月号でご紹介したとおり、GRAの研究活動は畜産、農地(水田以外)、および水田の3つの研究グループと、各研究グループ共通の課題を扱う横断的ワーキンググループにおいて、それぞれのコーディネート国を中心に推進されています。

水田研究グループ(Paddy Rice Research Group)

水田地帯の風景(写真)

水田では土壌表面が水で覆われる時間が長いために土壌中で還元的な環境が発達することから、嫌気性微生物であるメタン生成菌の活動により多量のメタン(CH4)が発生するなど、畑や草地などの他の農地とは全く異なった温室効果ガスの発生を示します。また、水田で生産されるコメは、アジアを中心に、世界の20億人以上の人口にとって主食とされる主要穀物です。これらのことから、GRAにおいて、農地研究グループとは別に、水田研究グループが構成されました。

各国からの参加者13名(集合写真)

図1 第2回水田研究グループ会合(フランス・ヴェルサイユ)の参加者

水田研究グループには、現在、19か国が参加しています。その内訳は、アジア8(インド、インドネシア、日本、マレーシア、パキスタン、フィリピン、タイ、ベトナム)、中南米5(アルゼンチン、コロンビア、メキシコ、ペルー、ウルグアイ)、アフリカ1(ガーナ)、ヨーロッパ4(フランス、ロシア、スペイン、オランダ)および米国です(図1)。アジアの2か国(中国、韓国)はまだGRAのメンバーに加盟していませんが、グループの会合にオブザーバーとして参加するなど関心を示しています。また、国際稲研究所(IRRI)にもグループ会合に参加いただくなど、関連の国際機関との連携(パートナーシップ)も進めています。グループ全体は、これまで日本(農環研・八木)がコーディネーターとしてリードしてきましたが、今後、ウルグアイ(国立農業研究所・ Alvaro Roel 氏)も共同議長国として協力いただく予定です。 水田研究グループでは、これまで、2010年9月1−3日(つくば:農業と環境 No.126 )と2011年3月1−2日(フランス・ヴェルサイユ)での2回のグループ会合のほか、電子メールでのやりとりを通して、各国の研究と情報の確認作業(ストックテイキング)と温室効果ガス発生量計測手法の標準化作業を進めてきました。

タイトル「Major topics of interests to research projects in the Paddy Rice Group」、13の研究課題のうち「GHG accounting/Life Cycle Analysis」18件、「Agronomy」11件、その他 32件

図2 水田研究グループのストックテイキング作業における「研究課題(research topics)」の回答
温室効果ガス排出量評価(GHG accounting/LCA)と排出削減のための農地管理(agronomy)に関する回答が多い。

ストックテイキング作業(stock-taking exercise)はGRAの3つの研究グループ全体で実行しているもので、まず、研究グループに共通の質問票を作成し、各国の窓口研究者を通して情報を集約しました。質問票には各国の個々の研究活動について、研究対象、目的、手法、予算、研究期間、参加研究者数等の回答欄が設定されました。2010年5月から約半年間にわたる回答プロセスを経て、水田研究グループにおいては16か国から69の研究活動に関する情報が寄せられました。その結果を見ると、研究対象について、水田タイプ別には灌漑水田を対象とした研究が全体の約80%を占め、天水田での研究の少ないことが明らかになりました。対象ガスとしてはメタンとともに一酸化二窒素(N2O)を対象としているものがその3分の2を占め、土壌炭素収支に対する検討も含め、複数の温室効果ガスを対象とすることが一般化していることが示されました。研究課題については、排出量評価と排出削減のための農地管理技術に関する回答が卓越しており、基礎研究よりも各国の施策ニーズに対応した研究が優先されていることが明らかになりました(図2)。

水田中に設置されたチャンバー(換気・計測装置のついた透明ボックス)と作業している人(写真)

図3 水田から発生する温室効果ガスを計測するクローズドチャンバー法

温室効果ガス発生量計測手法の標準化についても、計測方法に関する質問票を作成・配布し、各国での現状に関する情報を集約しました。その結果、10グループから回答が寄せられ、多くの国でクローズドチャンバー法を用いた計測が一般化していることが示されました(図3)。しかし、一日のうちの測定時間をいつにしたら平均的な発生量が求められるか、あるいは一作の総発生量を精度良く求めるための測定頻度等について今後検討を進める必要があるなど、標準化に向けた課題が示されました。

水田研究グループでは、今後も、研究情報を交換すると同時に、測定法標準化の課題を解決し、標準化された方法をマニュアルとして出版することを計画しています。また、これまでに発表された成果出版物と各国専門家のデータベースを構築し、GRA-web に掲載することも計画しています。さらに、グループの中長期的な活動計画として、排出削減策(緩和策)として各国で適用可能性の高い水管理技術を最優先し、その削減効果を国際的に多点で検証する試験を行うことを目指しています。その場合、温室効果ガス排出削減だけでなく、水稲生産性、水利用効率、LCA、経済評価等も考慮すべきであることが意見交換されています。水田研究グループの第3回会合は、本年11月18日につくばで開催される MARCO 国際ワークショップにおいて計画されています。

農地研究グループ(Croplands Research Group)

畑作地帯の風景(航空写真)

農地研究グループは米国農務省(USDA)の Steven Shafer 氏がコーディネーターを務め、ほぼすべてのGRA加盟国が参加しています。グループ内の議論から、以下に示す3つのサブグループが構成され、それぞれ、コーディネート国を決めて国際共同研究プロジェクトを策定することが議論されています。

・ 温室効果ガス純排出・吸収量計測のためのモニタリングネットワーク(コーディネート国:米国およびフランス)

・ 泥炭地、湿地での温室効果ガス発生(同:ノルウェー)

・ 炭素と窒素排出のモデル化(同:フランス)

その他の活動計画として、情報の交換をさらに進め、文献や研究データのデータベース化を進めることが合意されています。また、本年10月16−19日に米国テキサス州サンアントニオで開催される 米国農学会大会 に合わせて第3回農地研究グループ会合を開催することが計画されています。

畜産研究グループ(Livestock Research Group)

畜産地帯の風景:牧草地の牛の群れ、畜舎、サイレージなど(写真)

畜産研究グループはニュージーランド(農業温室効果ガス研究センター・ Harry Clark 氏)とオランダ(ワーゲニンゲン大学研究センター・ Martin Scholten 氏)が共同コーディネーターを務め、農地研究グループと同様、ほぼすべてのGRA加盟国が参加しています。グループ内では、反すう家畜(コーディネート国:ニュージーランドおよびウルグアイ)と非反すう家畜(コーディネート国:オランダおよびベトナム)の2つのサブグループが構成されています。反すう家畜サブグループでは反すう胃でのメタン発酵が、非反すう家畜サブグループではふん尿や堆肥などの家畜排せつ物からの温室効果ガス発生がそれぞれの主な研究対象となっています。

今後の行動計画として、情報や技術の移転、キャパビルの推進、ネットワークやデータベースの構築、IPCC など政策面へのサポートなど、多岐にわたって議論が行われています。次回の畜産研究グループ会合は、本年11月2−4日にアムステルダムにおいて、「 第6回非CO2温室効果ガス国際シンポジウム 」にあわせて、開催される予定となっています。

横断的ワーキンググループ(Cross-Cutting Groups)

各研究グループ共通の研究課題を扱う取り組みとして、横断的ワーキンググループが設置されています。ここで取り扱う課題は、3つの研究グループからの提案をGRA全体で議論して決定されますが、その最初の活動として、炭素窒素循環とインベントリーの課題が提案されました。これら2つのワーキンググループは、それぞれ、フランスとオーストラリア、カナダとオランダが共同コーディネート国として指名されています。

炭素窒素循環ワーキンググループは、まず、温室効果ガス排出削減策を評価するためのモデリングに焦点を絞り活動を開始しています。そのために、2011年3月4日にフランス国立農業研究機構(INRA)オルレアンセンターにおいてワークショップが開催されました。ここでは、フランス(INRA・Jean-Francois Soussana 氏)のコーディネートのもと、英国アバディーン大学・Pete Smith 博士のモデル研究に関する基調講演の後、各研究グループから本課題に関係する各研究グループでの議論の報告があり、意見交換が行われました。その後、フランス側から、前もって各国に協力を求めて調査が行われたモデルと観測データに関するアンケート結果が示されました。それぞれ、10か国程度から回答があり、わが国からもモデル( DNDC-Rice と RothC )および観測データ(全国土壌モニタリング、温室効果ガスフラックス、Rice-FACE )に関する情報を提供しています。各国の研究の現状に対する共通性や問題点が指摘され、本グループにおいて検討を継続するとともに、調査結果を提出していない国・研究グループに働きかけ、さらに情報を集積することが確認されました。

本クロスカッティング課題の次の会合は、本年7月11−14日にベルギー・ルーベンで開催される 「国際土壌有機物シンポジウム」 の際に計画されています。ここでは、同一の入力データを用いて、異なったモデルの出力結果を比較するベンチマークテストが計画されています。

もうひとつのインベントリーワーキンググループの活動はまだ開始されていませんが、本年中にカナダでワークショップを開催し、そのスタートを切ることが宣言されています。

以上、3回にわたって、GRAの設立背景や活動について紹介してまいりました。今後も、折に触れ、この「農業と環境」においてその活動を報告して行きたいと思います。

連載第1回の冒頭にお示ししましたように、食料と地球温暖化の問題は、人類が今世紀の間に長期的な視点で乗り越えなければならない課題です。GRAは開始されて間もない国際研究ネットワークですが、これらの課題に立ち向かうための人と国のつながりを強めるイニシアチブです。わが国からも、より多くの研究者と政策担当者の参加が期待されています。

八木一行(研究コーディネータ)

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