前の記事 | 目次 | 研究所 | 次の記事 2000年5月からの訪問者数(画像)
農業と環境 No.136 (2011年8月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

農業環境技術研究所リサーチプロジェクト(RP)の紹介(1): 温暖化緩和策RP

近年、急速な人間活動の増大により、大気中の二酸化炭素 (CO)、メタン (CH)、一酸化二窒素(NO:亜酸化窒素)などの温室効果ガスの濃度が増加し、それが原因となって地球温暖化が進行しています。

温暖化緩和RPでは、農業分野の温室効果ガスの排出を削減するため、農地からの温室効果ガス発生メカニズムの解明、発生抑制技術の開発、発生量の評価や予測などの研究を行います。

温暖化への寄与がもっとも大きい温室効果ガスは二酸化炭素で、次がメタン、そして一酸化二窒素と続きます。これら3つの温室効果ガスが農地から発生したり、農地に吸収されたりするしくみを図に表しました。

3つの温室効果ガスが農地から発生したり、農地に吸収されたりするしくみ(図解)

土壌への炭素蓄積

二酸化炭素は土壌有機物の分解によって発生しますが、この土壌有機物はもともと植物が光合成により作りだしたものです。つまり、植物が光合成をして二酸化炭素を吸収し、その植物が土壌にすき込まれ、土壌中の微生物により分解されて二酸化炭素が大気に出る、という炭素の循環が行われています。ですから、土壌中に有機物として存在する土壌炭素量が減少するなら農地は二酸化炭素を排出しており、増加なら二酸化炭素を吸収すると考えることができます。土壌炭素量を増加させるためには、土壌にすき込む堆肥や緑肥などの有機物の量を増やしたり、不耕起栽培に切り替えたりするなど、土壌有機物の分解を遅くする管理が有効です。

メタンや一酸化二窒素の削減

メタンは、水田に水を張ることで土壌が還元状態になると、メタン生成菌の働きによって発生します。また、新鮮な有機物が多く存在するほど発生量が多くなります。したがって、水田の水を落とす中干しの期間を長くしたり、新鮮なワラのすき込みから堆肥のすき込みに切り替えたり、すき込みの時期を春から秋に切り替えたりするなどの管理をすると、メタンの発生を少なくする効果があります。

一酸化二窒素については、化学肥料や有機物として投入される窒素の量が多いほど、発生量が多くなるので、無駄な窒素肥料の施用を抑える減肥や、肥効を良くするための局所施肥や分施(ぶんし)が発生量を減らすのに効果的です。さらに、硝化抑制剤入り肥料など新しいタイプの肥料も発生量抑制に効果があります。

総合的にみてどうなのか

3つの温室効果ガスについて個別に説明してきましたが、一つのガスを減らすと他のガスが増える場合があるので注意が必要です。これはトレードオフと呼ばれます。たとえば、有機物の投入量を増やすと土壌炭素量が増加するというプラスの効果が期待されますが、一酸化二窒素の発生を増加させるというマイナスの効果も予想されます。水田では、さらにメタンの増加というマイナス要因も考えられます。よって、どれか一つのガスだけに注目するのではなく、3つの温室効果ガスを総合的にみて排出量を減らすことが重要となります。また、農業機械の燃料などから発生する二酸化炭素も含めて総合評価することも重要です。たとえば、有機物の施用で土壌炭素が増加するとしても、堆肥の製造や運搬、散布などに土壌への炭素蓄積効果以上の二酸化炭素排出があっては意味がないからです。

さらに、温室効果ガスだけではなく、他の環境負荷とのトレードオフも考える必要があります。たとえば、有機物の投入が増加すると、硝酸性窒素による地下水汚染や閉鎖性水域での富栄養化などを引き起こす場合があります。また、農業の生産性も当然考える必要があります。これらは私たちのRPだけでは解決できないので、他のグループとの共同研究も積極的に行い、総合的な問題解決をめざします。

私たちは、解明したメカニズムをもとに土壌炭素量の変化やメタン、一酸化二窒素の発生量を予測する数値モデルを開発し、3つのガスの発生量を総合的に評価します。その評価を、ほ場レベルだけでなく、日本全体やモンスーンアジアの国々を対象にして行うことをめざし、研究を行っていきます。

(温暖化緩和策RPリーダー 白戸康人)

前の記事 ページの先頭へ 次の記事