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農業と環境 No.136 (2011年8月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

農業分野の温室効果ガスに関するGRA:炭素窒素循環に関する横断的ワーキンググループ会合(2011年7月 ベルギー(ルーベン))参加報告

2011年7月13〜14日の2日間、農業分野の温室効果ガスに関するグローバル・リサーチ・アライアンス(炭素窒素循環に関する横断的ワーキンググループ)の第2回会合 がベルギーのルーベンで開催されました。

農業分野の温室効果ガスに関するグローバル・リサーチ・アライアンス(GRA)については、「農業と環境」の5月号( No. 133,2011年5月1日 )、6月号( No. 134,2011年6月1日 )、7月号( No. 135,2011年7月1日 )に続けて解説が掲載されています。今回参加した炭素窒素循環に関する横断的ワーキンググループについては、7月号(No. 135,2011年7月1日)に書かれているように、温室効果ガス排出削減策を評価するためのモデリングに焦点を絞って活動を開始しており、今回は、3月にフランスで行われた第1回会合に引き続く2回目の会合でした。今回は、同じ会場で7月11〜14日に開催された 国際土壌有機物シンポジウム と並行して開催されたのですが、シンポジウムの登録者が約200人だったのに対し、GRAの会合の参加者は1日目が約30人、2日目は約20人と、小規模なものでした。

会場の様子(写真)

写真:会合のようす(全体説明をする Soussana 氏)

初めに、コーディネート役であるフランス国立農業研究機構(INRA)の Soussana 氏による、GRA全体および炭素窒素循環に関する横断的ワーキンググループの目的、組織、今までの活動経過の概要についての説明があり、第1回に参加していなかった私にとっては、これまでの流れを知るのに役立ちました。

続いて、各国の研究と情報の確認作業(ストックテイキング作業: Stock taking exercise )の途中経過が報告されました。前もって電子メールのやり取りで各国に送付したモデルと観測データに関する共通のアンケートに対する回答の集計結果が示されました。現時点で10か国から回答があり、観測データについては畑と草地のものがほとんどで、モデルについては一部が経験式、多くがプロセスモデルとの報告でした。

続いて、この分野で多用されている主要モデルである RothC、CENTURY、DNDC およびそれらから派生したモデルの相互比較について発表と議論が行われました。RothC と DNDC は、農環研の私たちの研究グループでも使用しているモデルです。ヨーロッパの農地および草地の観測サイトのデータを使って、各モデルによる温室効果ガスフラックスや土壌炭素量の計算結果を実測データと比較したり、モデル間で比較したりした結果が発表されました。実は、土壌炭素については、すでに10年以上前に、各地の長期連用試験データを用いて代表的なモデルの相互比較が行われていますが、メタン(CH)や一酸化二窒素(NO)の観測データを対象としたこのような試みはおそらく初めてと思われます。今回の観測サイトには水田が含まれていなかったので、主にNOが議論の対象でしたが、連続測定など質の高い観測データが乏しいので、モデルの検証が難しいことが議論されていました。また、モデル計算を通して予測したいことは長期の温暖化緩和効果であるのに、フラックスの短期的な変動にモデル計算の結果を合わせるのに苦労していることの矛盾も話題になりました。CHやNOの発生量を把握するには土壌炭素に比べて短い時間解像度での観測が必要とされ、モデル計算の時間解像度もそれに合わせて短くなります。長期の観測データが充実している土壌炭素の場合と比べると、CHとNOについては、観測もモデル化も、まだまだ課題があることが明らかになりました。

翌日は、引き続き主要なモデルを使って、窒素肥料の施用量を減らした場合に温室効果ガスの発生量がどのように変わるか、「感度分析」 といわれるモデルによる計算実験の結果が示されました。どのモデルでも、ほぼ、NOの発生量はN施肥量に比例して直線的に増加することが示されるなど一定の成果がありましたが、一方で、NOの観測値の時間解像度が十分に短くないので発生のピークを逃している可能性があるとの指摘や、土壌炭素を評価するには観測期間が短いなどの問題点も指摘され、あらためて、まずは観測データが重要であることが再確認されました。温室効果ガスの観測について高い技術を持つ日本の私たちの研究グループの今後の貢献の可能性はここにもあるのではないかと感じました。

今回はヨーロッパのデータを用いてモデルの比較を行いましたが、次回は北米のデータを使って類似の議論をすることが合意され、閉会されました。初めてこの会合に参加し、「横断的ワーキンググループ」であるにも関わらず、GRAの3つのグループ(水田、農地、畜産)のうち、今のところは、ほとんどが農地に関する議論になっているという印象を受けました。実際、今回の会合へのアジアからの出席者は私だけで、水田や家畜に関する議論は行われませんでした。この点、アジアなど欧米以外の国にも参加を呼び掛け、水田や畜産も含む真に「横断的な」ワーキンググループになるように今後の発展を望むという趣旨の発言をしておきました。今のところは欧米の畑地中心の議論がなされているグループですが、いずれは水田についての議論やアジアからの貢献もすべきと思います。

(農業環境インベントリーセンター 白戸康人)

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