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農業と環境 No.137 (2011年9月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

国際地球科学・リモートセンシングシンポジウム(7月 カナダ(バンクーバー))参加報告

2011年7月24日から30日まで 「米国電気電子学会(IEEE) 国際地球科学・リモートセンシングシンポジウム2011(2011 IEEE International Geoscience and Remote Sensing Symposium:IGARSS 2011)」 がカナダ・バンクーバーで開催され、農業環境技術研究所から井上吉雄上席研究員と石塚直樹主任研究員の2名が参加しました。

今年のこの会議は仙台で開催される予定でしたが、3月11日に発生した東日本大震災のため、開催場所が仙台からバンクーバーに変更されました。そのため、例年よりも参加者が減ることが懸念されましたが、幸いそれほど大きな影響はなく、発表件数は口頭とポスターを合わせて約 1,500 件と盛会でした。また、東日本大震災を受けて、災害把握に関する特別セッションや津波についての公開レクチャーなどがプログラムに追加され、会場によっては立ち見が出るほどでした。

街の紹介

会場となったバンクーバーは、カナダのブリティッシュコロンビア州南西部に位置する同国有数の世界都市であり、世界で一番住みやすい都市に選ばれたこともあるそうです。2010年の冬季オリンピックが開催されたので、記憶に新しい方も多いと思います。カナダの天然鉱物資源および工業製品、石油などを輸出する重要な港としての港湾業や、水産農林業、観光その他によって、周辺の都市と合わせた人口は200万人を超え、カナダ第3位の大都市圏を形成しています。自然環境と都市文化のバランスのいい発展を背景に、世界各国からの移民が多い国際都市としても有名です。移民が多いため、名物料理らしい名物料理がない一方、世界各国の料理を楽しむことができます。

バンクーバー市街の高層ビル群が手前の水面に写っている(写真)

スタンレーパークからバンクーバーの市街地を望む

2010年バンクーバーオリンピックの聖火台(写真)

会場のすぐ近くに2010年のバンクーバーオリンピックの聖火台がある。

水上飛行機の離発着場(写真)

会場横の湾には水上飛行機の離発着場がある。飛行機のエンジン音が会場内でも聞こえた。

会議全体の印象

この大会は米国電気電子学会(IEEE)が主催するため、リモートセンシングの中でも電波を使った観測に関する発表が多いことが特徴です。とくにマイクロ波を用いた合成開口レーダ(SAR)に関する発表が多く、SAR とハイパースペクトル(超多波長)観測に関する発表が全体の約8割を占めていました。

石塚(報告者)は、この大会に始めて参加しました。この国際会議で発表するための事前審査があり、申し込んでも3割程度は却下されてしまいます。そのため、エントリーした後は、事前審査を無事通って発表できるかどうか不安でした。この事前審査があるため、発表は一定のレベルが保たれています。

井上は、「Estimation biophysical variables in rice canopies by high-resolution X-SAR and C-SAR signatures」 と題した口頭発表を行い、青森県で行っているXバンドとCバンドの SAR を用いた水田観測について報告しました。

石塚は、「Observation of Japanese paddy fields using PALSAR data」 と題したポスター発表を行い、つくばで行ったLバンドの SAR を用いた水田観測について報告しました。

また、全偏波 SAR 観測の情報抽出、土地被覆・土地利用変化の抽出、時系列マイクロ波計測からの土壌水分の推定、SAR データの解析方法、熱帯林、沼沢地、環境のハイパースペクトル計測、農業生態系、東日本大震災、GIS と農業情報、自然災害とリモートセンシングといった多くのセッションに参加しました。

とくに欧米で行われている、SAR を用いた農地の集中観測では、正規に購入すれば6千万円を超える大量の衛星データを、相互利用ということでほぼ無償に近い形で使用しており、一人の研究者が行える研究のスケールとの差と、日本の宇宙戦略自体の弱さを痛感しました。

一方、マイクロ波を扱う工学系の研究者がちょっと農地を対象にやってみましたといった発表ではなく、きちんと地上調査を行った農学的な視点からマイクロ波計測を利用したという発表も見られたことに感心するとともに、自分ももっとがんばらねばという気持ちになりました。

IEEE は電気・電子学会ということで、どうしても農業から遠い分野のように見られがちです。しかし、SAR およびハイパースペクトル計測は、井上、石塚両名の参加している農業空間情報・ガスフラックスモニタリング リサーチプロジェクトにおいても、生態系情報を抽出するための新しい利用法の研究に取り組んでいる分野であり、遠くて近い分野です。今回参加したことで、今後も IEEE における情報収集とアピールは必要であることを再認識しました。

なお、次回の IGARSS 2012 は、ドイツのミュンヘンで開催される予定です。

井上上席研究員の発表。手前のプレートには「VANCOUVER 仙台 2011 IGRASS」と書かれている(写真)

井上上席研究員の発表のようす。仙台からバンクーバーに会場は変更されたが、仙台のロゴは残された。

井上上席研究員の発表。手前のプレートには「VANCOUVER 仙台 2011 IGRASS」と書かれている(写真)

ブリティッシュ・コロンビア大学(UBC)には、農学者にして国連事務次長を務めた新渡戸稲造の記念庭園がある。隣接する人類学博物館で学会賞の表彰式が行われた。

(生態系計測研究領域 石塚 直樹)

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