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農業と環境 No.138 (2011年10月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

第96回米国生態学会(8月 米国(テキサス州オースチン)) 参加報告

2011年8月7日から8月12日まで、米国テキサス州オースチン市のコンベンションセンターで開催された 「第96回米国生態学会 (96th Ecological Society of America, Annual Meeting、略称 ESA )」 に参加しました。ESA は、米国内最大の生態学関係の学会ですが、米国のみならず、英国をはじめとする欧州各国、中国・韓国などからも多くの研究者が参加しています。

登録カウンターのある広いロビーでたくさんの人が移動し、立ち話をしている(写真)

写真 コンベンションセンター内参加登録カウンター前

4千人近い参加者が集まる ESA では、通常の口頭・ポスター発表に加えて、さまざまな生態学上のテーマをその道の専門家がレクチャーしてくれるワークショップ、米国生態学会を代表する研究者による基調講演(受賞講演を含む)など、内容も盛りだくさんで充実しています。学会近郊の自然や農業環境をめぐるフィールドトリップは20以上のオプションがあり、分野をこえた研究交流の絶好の機会となっています。また、多くの国際生態学雑誌の編集会議や、さまざまな学分野・研究グループの交流会も同時に開催されるため、米国外の著名な研究者も、この機会に多く集まります。

ワークショップ

参加者たちがノートパソコンを広げて解析演習をしている(写真)

写真 WK-1 状態空間モデルを使った多変量時系列データの解析の様子

報告者(山中)は、「 WK-1.状態空間モデルを使った多変量時系列データの解析 (Analysis of Multivariate Time-Series Data Using State-Space Models )」、および 「 WK-4.生態学におけるベイズおよび階層ベイズモデリング入門 (A Brief Introduction to Bayesian and Hierarchical Bayesian Modeling in Ecology )」 の2つのワークショップに参加しました。どちらもコンピューターを駆使した統計解析手法のレクチャーで、とても有意義でした。とくに、初日の、状態空間モデルを使った多変量時系列データの解析では、Elizabeth Holmes 博士(米国立海洋漁業局) がメインの講師でした。複数の異なる地点や観測種類のデータが得られた場合、どのようにしてデータ間の相互相関を考慮したモデリングができるか、ていねいな解説がありました。午後は、Holmes 博士らが開発した、R (CRAN ) のライブラリ MARSS を使って、デモデータの解析演習を行いました。演習では、サポート役の講師が複数常駐して、わからない部分や細かい技術的な質問にもていねいに答えてくれます。他の参加者とも、和気藹々(あいあい)と議論しながら進められました。

基調講演

講演中のStephen W. Pacala 教授(写真)

写真 マッカーサー賞 Stephen W. Pacala 教授の講演

ESA の目玉の一つが、学会賞受賞者による基調講演です。マッカーサー賞は、生態学の分野で多大な業績を上げた教授クラスの研究者に2年に一度贈られる、権威ある賞で、今回はプリンストン大学の Stephen W. Pacala 教授 が受賞しました。Pacala 教授の講演は、ご自身の研究の詳細というよりは、現在世界全体で抱える人口問題・環境問題に、生態学者がどのように貢献できるか、聴衆に逆に問いかける内容でした。とくに、生物学をベースとする生態学者だけでなく、海洋・気象、物質循環、社会科学など、基本理念も対象スケールもまったく異なる複数の研究グループが協力して、地球規模の取り組みを行う重要性を強調していました。こうした基調講演を間近で聴くことで、世界の生態学のトレンドを肌で感じることが出来るだけでなく、著名な研究者が、過去どのような研究履歴を持っていて、どのような協力関係を築いてきたか、人となりに触れることが大きな刺激になると思います。

ポスター発表

発表ポスターの前で熱弁を振るう報告者(写真)

写真 報告者(山中)ポスター発表のようす

報告者は、最終日に 「日本のナラ林を蹂躙するナラ枯病: 発生源と感染拡大様式の解明 (Severe mass oak defoliation in Japan by oak wilt disease: Origin and propagation pattern of the defoliation)」 のポスター発表を行いました。発表は、報告者がこれまで(独)森林総合研究所との共同研究で行ってきた研究の総括で、日本全国で大規模なナラ枯れが発生する要因を、遺伝子解析、個体群動態解析、社会的な背景によって考察する内容です。ナラ林が薪炭林としての価値を失い、大径化することでカシノナガキクイムシの攻撃を受けやすくなり、全国各地で同時多発的に被害が拡大したことを、解説しました。最終日だけに、早めに帰ってしまった参加者も多くあり、大盛況とはいきませんでしたが、私の発表に絞って、議論しに来てくれた研究者もあり、充実した発表になりました。

一般発表は、ポスターと口頭発表の2種類があり、どちらも ESA 会員・非会員を問わず、発表することが出来ます。ポスターのほうが、興味を持ってくれた研究者と突っ込んだ議論が出来るのでお勧めですが、口頭発表も、発表時間が20分とたっぷりなので、多くの人にアピールしたい研究内容については、こちらを選択してもよいでしょう。 ESA は、当然(!)アメリカ国内で毎年開催され、街でも会場でも英語が使えるので、割合に参加しやすい「国際」学会といえるでしょう。アメリカ人研究者は、気さくで年齢・身分にこだわらないように感じます。積極的に自分の研究テーマをアピールして、相手におもしろいと感じてもらえれば、すぐにでも共同研究に発展しそうです。来年は、オレゴン州ポートランドで開催されます。ESAのウェブサイト をチェックして、参加を検討されてはいかがでしょうか。

(生物多様性研究領域 山中武彦)

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