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農業と環境 No.139 (2011年11月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

ポストゲノム時代の新産業酵母に関する研究会(9月、ウクライナ(リビブ)) 参加報告

2011年9月11日から14日まで、ウクライナの西端に位置するリビブという町で開催された、「ポストゲノム時代の新産業酵母に関する研究会」 に参加しました。滞在費と参加費は自分の研究費を使い、旅費を農環研女性研究者支援事業から支援していただき、関係者の方々の協力を得て、出張が実現しました。

この研究会は、酒醸造やパンに使われる以外の産業用酵母に関するもので、10年ほど前にヨーロッパの研究者グループがEUの国際共同研究費を得て、複数の酵母のゲノム解析をした後の進展を報告しあうものでした。今回の学会参加の目的は、その研究アプローチ方法を学ぶとともに、農環研の生分解性プラスチックに関する研究成果と、日本での環境産業の現状と可能性を発信することでした。

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オーガナイザーのシビルニー博士(左端)と私(隣)

もちろん、ヨーロッパの産業酵母の研究でも、予算獲得には苦労しており、今回の研究会は5年ぶりに、オーガナイザーのシビルニー博士の呼びかけで開催され、21か国にわたる113名の参加者が出席しました。これは、たがいに仲良くなり、十分な情報を得るためにちょうど良い規模でした。シビルニー博士は、開発途上国であるウクライナと隣国のポーランドの研究室を運営し、ヨーロッパ微生物学会でも主要な地位に就いており、今回のすべての発表で深い議論を導く発言をしていました。また、彼はこの研究会に、この分野のヨーロッパの主要なメンバーを集めており、彼らを中心に、分野全体を発展させるために、人を育て、協力し、アイデアを出したい、という姿勢が強く感じられ、とても居心地の良い研究会でした。

ゲノムが解析された複数の酵母のうち、その情報を駆使して、遺伝子発現や細胞の機能を解析しながら、産業用の目的物質の生産性を強化してきた種では、研究や技術開発が飛躍的に進展し、研究者数も増えていたことから、菌自体が高い資質を持つだけでなく、それを発掘して強化する研究者の能力と努力の重要性が伝わってきました。民間会社の発表も数件あり、新しいビジネスの種を探しに来ていました。バイオプラスチック原料の生産に関する研究も、4件程度あり、ヨーロッパでも再生可能な化学物質やエネルギー生産のニーズが高いようです。

(写真)

北本の研究発表

私は生分解性プラスチックを分解する酵母の研究を口頭発表しましたが、大学や国立研究所の研究者たちだけでなく、民間会社からも反応がありました。世界市場は、私たちが想像している以上にオープンになってきていること、バイオテクノロジーは市場に直結しているため、独創性が高く産業に有益な研究が、私たち一人ずつに求められていると感じました。また、座長にも任命され、これらをきっかけに、参加者した多くの研究者と仲良くなりました。宿泊と会場が同じ場所だったので、研究発表の合間には、朝から晩まで、研究だけでなく互いの国の情勢や研究者のライフスタイルなどの話題で、毎回違う人と話をしました。ヨーロッパでは伝統的に女性を大事にしてくれるので、女性研究者でちょっと得したかもしれません。

ウクライナは、鉄鋼や農業資源に恵まれており、第一次大戦以前は、豊かな国だったようです。今回の開催地となったリビブは、オーストリアに似た装飾が多い建物で構成された、美しい観光地です。食事も野菜の種類や量が豊富で、日本人になじみやすい健康的なメニューでした。一方で、ソビエト連邦時代のなごりか、融通が利かない面もあり、小さな空港の出入りには、驚くほど時間がかかりました。ウクライナには日本車があふれ、観光客の90%以上が日本製のコンパクトデジカメを持っています。ウクライナへ向かう機内で、現地のビジネスマンと話しましたが、ウクライナは資源を持っているが、新しい製品を生み出す力がないことを問題視しており、日本の技術開発力を高く評価していました。今回の海外出張から、私たちは世界のために研究を進め、技術を作っていかなければならないと感じました。

(生物生態機能研究領域 北本宏子)

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