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農業と環境 No.140 (2011年12月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

農業環境技術研究所リサーチプロジェクト(RP)の紹介(9): 農業環境情報・資源分類RP

農業環境技術研究所では、わが国の農業環境がかかえる主要な研究課題について重点的に研究開発を進めるのと同時に、これらの研究を支える基盤的な研究として農業環境インベントリーの高度化を推進しています。もともとは商品や財産などの目録を意味していた “インベントリー” という言葉は、最近は自然資源の目録や目録に記された物品の意味でも使用されるようになっています。地球規模の環境変動と農業活動との相互作用に関する研究や、農業生態系における化学物質の動態とリスク低減に関する研究などを進める上で、農業環境インベントリー研究の重要性はますます増しています。

そこで、農業環境情報・資源分類リサーチプロジェクトは、農業環境インベントリーの高度化のために、農業環境情報の整備と統合データベースの構築を行っています。具体的には、農業環境を構成する重要な要素である土壌、昆虫、微生物、気象などを対象として個別のデータベースの整備・拡充を行い、データの活用手法を開発します。また、農業環境中の放射性物質を長期にわたってモニタリングすることにより、その時間的推移を把握します。さらに、農業環境情報を一元的に提供できる農業環境情報統合データベースを構築します。そのため、次のような3つの課題を設けて研究を進めています。

(1)農業環境情報の整備

2011年3月に農環研が公表した 「包括的土壌分類 第1次試案」(平成23年7月29日プレスリリース) を用いて、日本全国をカバーする20万分の1スケールの土壌図を作成し関連する土壌情報を提供します。これらを用いて、包括的土壌分類第1次試案により類型化・標準化した炭素貯留機能、水質・大気浄化機能、土壌汚染リスク、外来植物侵入リスクなどのマップを作成することで、市町村レベルでの農業・環境問題に対する具体的な提言が可能になります。

微生物、線虫、昆虫については、「微生物インベントリー(microForce)」、「土壌線虫画像データベース」、「昆虫データベース統合インベントリーシステム」 など、各分野の基盤的情報を提供できるようになっています。これらのシステムで提供されている各種データベースに新たな情報を追加するとともに、新たなデータベースも追加して、データベースの質の向上と登録件数の増加をめざします。また、系統情報学に基づく生物多様性データの定量的な利活用法の開発を進めます。さらに、「携帯フォトシステム」 を活用し、一般参加型の生物調査支援システムを試行します。また、農林水産省が推進するジーンバンク事業への登録作業を計画的に進めています。

「微生物インベントリー(microForce)」からの微生物データの発信

「昆虫データベース統合インベントリーシステム」からの昆虫データの発信

昭和32年より長期間実施してきた放射性核種のバックグラウンドレベルの監視 (農環研ニュース No. 86 (PDF)) を継続するのに加え、原発事故対応のため、葉菜類と土壌を採取して 131 I、 134 Cs、 137 Cs などの放射性核種を分析し、野菜と土壌の汚染状況の変化を明らかにします。

(2)統合データベース

上述の土壌、生物、放射線に加えて、研究所には気象、温室効果ガス、衛星写真など非常にさまざまな農業環境インベントリーが存在します。この課題では、これら多様な農業環境インベントリーを一元的に提供できる農業環境情報統合データベースを構築し、各種データの利用促進をはかります。たとえば、各種データを簡単にダウンロードできるシステムを開発したり、収集されてきたデータを視覚化したりするなど、最新のITをも活用して、さまざまなデータベースシステムを開発します。

(3)総合的環境影響評価 (エコバランス評価) 手法の開発

高い農業生産性と環境保全の両立に向けた農業生態系管理シナリオの策定に資するため、多様な空間情報、モデル、LCA 手法、統計手法などを活用して、温室効果ガスの排出、土壌炭素の貯留、生物多様性、地下水への硝酸性窒素の溶脱、窒素の広域フロー等を推定し、生産性を考慮した総合的な環境影響評価(エコバランス評価)の手法を開発します。

(農業環境情報・資源分類リサーチプロジェクト リーダー、
農業環境インベントリーセンター 上席研究員 吉松 慎一)

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