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農業と環境 No.145 (2012年5月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

刊行物の紹介: 農業環境技術研究所報告 第31号

農業環境技術研究所は、2012年3月に農業環境技術研究所報告 第31号 を刊行しました。

農業環境技術研究所公開ウェブサイト内の 農業環境技術研究所報告のページ (http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/sinfo/publish/bulletin.html) から、掲載報文のPDFファイルをダウンロードできます。

ここでは、この号に掲載された3つの報文について、表題、摘要、おもな目次などを紹介します。

日本産昆虫、ダニの発育零点と有効積算温度定数:第2版 (研究資料)

桐谷圭治

「はじめに」より抜粋

気候変動による地球温暖化の生態系への影響が注目されつつある。昆虫は生物種のなかでも最大の種数をしめる。しかも外界の温度に体温が支配される変温動物である。2010、2011年の異常猛暑は、温度と生物の関係を改めて見直す動機となった。外温性の昆虫は気候変動下で高温のストレスをうけ、北上した種は新分布地で低温のリスクに曝される。高低温に対する耐性の理解は今後の分布拡大や生活史の変化を予測するには不可欠である。個々の種ごとに温暖化の影響を見るボトムアップだけの研究に頼っていては種数の多い昆虫では、膨大な時間がかかり温暖化の進行スピードについていけない。トップダウンの研究としては、発育零点と有効積算温度定数に関する研究資料を収集してデーターバンクを作成しながら、一般的な総合的アプローチを同時に進めることである。地球温暖化は年間発生世代数および冬期死亡率の変化、北方への分布拡大などを伴うが、他方では昇温による高温障害を伴うことも予想される。昆虫と温度の関係は、もっとも基本的な生理現象である。それにもかかわらず、いまだに不明なことも多い。

昆虫の発育零点 ( T0 ) と有効積算温度定数 ( K ) は、昆虫の世代数や出現期などの予測に欠かせないパラメータである。 (略)

桐谷 (1997) は 「日本産昆虫、ダニ、線虫の発育零点と有効積算温度」 で日本に分布するものを中心に430種の昆虫、ダニ、線虫を扱い、総計約600例の報告を収録して、概括的な分析を加えた。それから10年余を経過した現在、種数で580種、同種についての複数の報告を数えると900編の報告が集積されている 。(略) 本報告では、桐谷(1997)以降に新たに報告された資料を追加した。 (略)

目次

I  はじめに

II 積算温度法則による T0 および K の推定

III 資料の範囲

IV 分類群による T0 および K の関係

V  目内の科間変異および種内変異

VI 分布・起源による変異

VII T0 と K のトレードオフ

VIII 発育段階と発育零点

IX 産卵前期と成虫羽化までの T0 の比較

X  地球温暖化の影響評価

XI 昆虫の高温障害

XII T0 および K のデータ

文献目録

土壌−植物系における放射性セシウムの挙動とその変動要因 (総説)

山口紀子・高田裕介・林健太郎・石川 覚・倉俣正人・江口定夫・吉川省子・坂口 敦・朝田 景・和穎朗太・牧野知之・赤羽幾子・平舘俊太郎

(まえがき)

東京電力福島第一原子力発電所の事故により放出された放射性核種は、広く環境中に拡散し、日本の農業にも大きな打撃を与えた。今後も長期にわたり半減期の長い放射性セシウム (134Cs, 2.06 年、137Cs, 30.2 年) による影響が懸念される。土壌に沈着した放射性 Cs はまず土壌に吸着する。そして土壌溶液に再分配されることで植物の根から吸収され可食部まで移行する。一度土壌に吸着した放射性 Cs が土壌溶液に再分配される割合は非常にわずかである。このことが農作物の汚染を最小限に抑えている一方で、除染を難しいものにする一因ともなっている。森林生態系では放射性 Cs は比較的動きやすい形態を保存したままで循環しているため、農地への流入を含め、放射性 Cs のダイナミックな挙動を流域レベルで考慮する必要がある。本総説では、土壌‐植物系あるいは農業生態系における放射性 Cs の挙動の特徴とその支配要因について解説した。さらに、農地から放射性物質を除去する手法についてとりまとめ、わが国におけるこれらの手法の有効性について議論した。

目次

I  はじめに

II 土壌中の Cs の挙動と福島の土壌汚染状況

III 土壌固相−液相間におけるCsの分配に関わる要因

IV 植物のCs吸収メカニズム、植物種・品種間差

V  土壌‐地下水‐流域における放射性 Cs の輸送過程

VI 森林生態系における放射性 Cs の動態

VII 農地における放射性 Cs の除染対策

引用文献

農薬の大気を経由した環境動態評価と大気放出量削減技術 (学位論文)

小原裕三

「緒論」より抜粋

農耕での食料生産において病害虫や雑草による損失を防ぎ、生産性を維持するための植物防疫用化学資材(農薬)はとても重要な役割を果たしている。しかし、ヒトや非標的生物、環境への影響が懸念されていることも事実である。このような状況下、1992年に 「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書締約国会議」 においてオゾン層破壊物質として臭化メチルの規制が導入されたことは、農業現場に大きな影響を与えた。何故なら、農薬が成層圏オゾンを破壊するなど予想されていなかったからである。また、2004年に 「残留性有機汚染物質 (Persistent organic pollutants: POPs) に関するストックホルム条約」 が発効され、POPs に指定された12の有機化学物質(群)のうち9物質が農薬として用いられていたものであり、その翌年から、POPs 条約締約国会議 (Conference of Parties of United Nations Conventions: COP) が毎年開催され、POPs としての規制対象物質の追加が検討されている。 (略)

日本では、2003年の食品衛生法の改正により、ポジティブリスト制度が導入され、農薬散布時におけるスプレードリフト(漂流飛散)についての関心が以前にも増して高くなった。農薬散布圃場周辺の作物へのスプレードリフトによる汚染の防止が、喫緊の課題となっている。

(略)

本研究では、日本特有の土壌くん蒸処理方法による土壌くん蒸用農薬の大気への放出量について、フラックス自動測定装置を試作し、評価を行った。大気放出フラックス変動要因を解明し、得られた知見を応用した放出量削減技術の開発を行い、放出量削減技術を適用した場合における関東地域の大気中濃度の低減化の程度を評価した。また、POPs に分類される有機塩素系農薬 (Organochlorine pesticides: OCPs) の広域分布を明らかにするため、日本全域の大気中 OCPs 濃度を、PUF(Polyurethane foam)ディスクを用いたパッシブエアーサンプラー (Passive air sampler: PAS) で、同時に評価することを試みた。OCPs 分解物や異性体の解析により放出起源を、またバックトラジェクトリー解析で放出地域を明らかにした。

目次

I  緒論

II 土壌くん蒸用農薬の大気放出量評価

III 土壌くん蒸用農薬のフィルム透過速度評価法と推算法

IV 土壌くん蒸用農薬の大気放出量低減技術

V 大気放出削減技術を適用した場合の大気中濃度の評価

VI パッシブエアーサンプリングによる日本全域における有機塩素系農薬類の広域同時モニタリング

VII 結論

摘要

謝辞

引用文献

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