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農業と環境 No.147 (2012年7月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

第6回環境毒性化学会世界大会 (5月 ドイツ) 参加報告

2012年5月20日から24日まで、ドイツのベルリンで開催された第6回環境毒性化学会世界大会 ( 6th World Congress of the Society of Environmental Toxicology And Chemistry (SETAC)) に参加しました。

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大会の会場(エストレルホテル)

SETAC は1979年に設立された学会で、その使命は環境と生態系の保護、改善および管理のため持続可能な方策の理論と実践の発展をサポートすることとされています。設立当初は北アメリカ部会のみでしたが、さらに3つの部会(ヨーロッパ、アジア/太平洋、ラテンアメリカ)が設立され、現在では約100か国、6千人の会員で構成されています。各部会における年会は毎年開催されていますが、4〜5年ごとに本大会のような世界大会が開催されます。会員数は近年増加傾向にあり、現在の会員数は、2008年に行われた前回の世界大会(オーストラリア・シドニー)の開催時に比べて約25%増加しているようです。

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ポスター発表の会場

本大会では約70のセッションに分かれて、口頭発表およびポスター発表合わせて2,400件以上の研究発表が行われました。その中でもとくに発表数が多かったセッションは、「ナノ物質の環境特性・検出/動態・暴露・リスク」、そして「海洋における環境化学・生態毒性」で、近年注目されている分野であることがうかがえました。

筆者(元木)は「有機化学物質の持続可能なレメディエーションにおける収着と生物有効性」のセッションに参加しました。話題の中心は、炭や活性炭を用いた汚染土壌の浄化技術と、それらの資材の施用によって生じる、汚染物質の生物有効性の低下とその評価法に関するものでした。

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報告者の発表

筆者は、「Effect of pH and electrolyte concentration on soil adsorption of pesticides」 というタイトルで発表を行いました。日本では近年、作物の栽培時に散布した農薬が農耕地土壌へ残留し、その後に作付けされた作物(後作物)から残留基準値を超えて検出される事例が報告され、その対策が求められています。農薬の後作物における残留リスクを評価するためには、農薬の土壌−植物系における動態(農薬の土壌中での吸着・分解、植物への吸収移行、植物代謝等)を体系的に解析しなければなりません。本発表では、この中でも農薬の土壌吸着に関する研究成果を報告しました。海外では後作物における農薬の残留は一般的な問題となっていないようで、残念ながら同じような研究目的を持った研究者に会うことはできませんでした。しかし、ヨーロッパでは農薬の地下水における汚染リスクを評価・予測するための基礎研究として、農薬の土壌−植物系の動態に関する研究がされており、とくに植物による有機化学物質の取り込みについての発表が複数見られました。研究の目的は違いますが、農薬の後作物残留リスクを評価する上での重要な知見を収集することができました。

ベルリンといえば、冷戦時代に東西ドイツを分断していたベルリンの壁が有名ですが、街のいたるところでその痕跡(こんせき)を見ることができました。殺伐とした時代の象徴的遺跡として一部が残されているようです。ベルリンはドイツの首都ですが、東京のようなごみごみとした感じがなく、静かで落ち着いた雰囲気の街並みでした。また、日本人と同じように信号無視をせず、車が来なくても赤信号で立ち止まっている人々の姿を目の当たりにし、これまで私がいだいていた印象通りのドイツ人の堅実な国民性を窺(うかが)い知ることができました。

(有機化学物質研究領域 元木 裕)

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