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農業と環境 No.148 (2012年8月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

グローバル・ソイル・パートナーシップ: アジア地域パートナーシップ設立会合

「農業と環境」の前号(No. 147)では、「グローバル・ソイル・パートナーシップ(GSP):地球の土壌資源を保障するための新たな国際協力の枠組み」 を紹介しました。この GSP の活動の基礎となるのが、各地域内での目標設定、実行計画の策定と目標到達度のレビューを行う、地域パートナーシップ(RSP)です。また、RSP は、GSP が掲げるプロジェクトへの参加、地域内の土壌情報の集約と世界標準に合わせるための編集作業、地域内での研究者間の協力体制の構築、地域内での基金や個別テーマ間でのネットワーク形成も担います。

今回は GSP のアジア地域のパートナーシップであるアジア・ソイル・パートナーシップ(ASP)の設立会合について紹介します。本会合は2012年2月に中国科学院南京土壌研究所で開催され、26の国 (アジア地域からは17か国) から、研究・教育機関や関連各機関に所属する土壌科学の専門家が参加しました。日本からは農環研と(独)森林総合研究所の研究者が参加しました。

アジア・ソイル・パートナーシップ(ASP)の設立会合の参加者(集合写真)ASP 設立会合の参加者

設立会合では、まず、GSP の事務局である国連食糧農業機関(FAO)の Ronald Vargas 氏から、GSP 設立の経緯と活動計画について説明がありました。その後、各参加国からのカントリーレポートがあり、各国の土壌調査事業や土壌データの蓄積と利活用の状況などが紹介されました。農環研は、GSP のアジアネットワークの設立に関して賛同を表明し、ASP は東・東南アジア土壌科学学会連合 (該当するページが見つかりません。2015年1月) のような既存の地域内研究ネットワークを最大限に利活用することが望ましいのではないかという提言を行いました。

参加国から数多く挙げられた論点の中では、土壌調査員の枯渇が切実な問題となっていることが共通していました。わが国においても土壌調査ができる人材が急激に減少していますが、参加国の中には、土壌調査員が皆無となり、土壌資源を適切に維持管理するための土壌保全調査事業などを行えない状況であると報告した国もありました。また、各国が国家プロジェクトとして収集してきた土壌資源に関する貴重な情報が、土壌調査員の減少とともに散逸してしまう危険性についても議論されました。そこで、アジア地域内で人材育成に注力しつつも、既存のデータセットが散逸しないように努力すべきことが議論されました。

会合の3日目には、カントリーレポートや議論をもとに、参加者の共同声明として “Nanjing Communique on Asian Soil Partnership” が取りまとめられました。会合の参加者全員が(研究者個人として) GSP のアジア地域ネットワークである ASP の重要性を認識し、設立に向けた準備事務局を立ち上げることで同意しました。ASP の準備事務局は中国科学院南京土壌研究所に置かれることが決められ、準備事務局において2回目以降の会合を開催し、具体的な取り決めなどが協議されます。

Nanjing Communique on Asian Soil Partnership(署名文書)Nanjing Communique on Asian Soil Partnership(共同声明)

共同声明の中では、ASP としての枠組みの中で優先すべき4つの課題が明記されました:

(1) アジア地域内外での土壌に関する知見や新たな技術の共有および伝達

(2) 土壌資源の持続可能な利活用に関心を持つすべての人々への土壌情報の提供

(3) アジア土壌情報システムの構築と全球的な土壌情報システム (GlobalSoilMap.net*1 等) への貢献

(4) 土壌科学や土地管理の若手専門家の養成

すでに、アジア地域のほか、中東、南米、アフリカの各地域においても RSP の設立会合が開催されました。今後、これらの RSP をもとに、GSP として地球の土壌資源を保障するためのさまざまな取組みが行われる予定です。わが国でも、GSP や ASP の枠組みに積極的に貢献し、土壌の安全保障 (Soil Security) を通して食の安全保障 (Food Security)、温暖化の緩和・適応、土地劣化などの学際的な課題を克服するため、リーダーシップを発揮していくことが重要だと考えます。

Nanjing Communique 作成後の参加者たち(集合写真)Nanjing Communique 作成後の参加者たち

*1 GlobalSoilMap.net について

GlobalSoilMap.net は、全陸域を空間解像度90mメッシュ(マス目)で区切り、そのメッシュ1つごとの、土壌中全炭素含量、pH、砂含量、シルト含量、粘土含量、礫(れき)含量、仮比重、有効水分容量を予測して、地図化する、全球レベルのプロジェクトです(一部出資はビルゲイツ財団)。作成した土壌特性値地図はインターネット上で公開され、世界中の政策担当者、さまざまなレベルのステークホルダー、研究者などに無償でデータが提供されます。

高田裕介(農業環境インベントリーセンター)

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