先月に続いて、また植物に関する本を紹介する。この本の著者が子どもだったころ、いまから50年と少し前の時代には、日本人は自然ともっと深く関わって暮らしていた。家庭には電気製品も少なく、道具や品物は一部だけが金属で、その多くは木や竹で作られていた。植物が多くの素材として加工され、身の回りで日常の道具として使われていたころの話だ。
古くから、人々は世界のどこでも、地域の植物を食材だけではなく、その特徴を活かす工夫をして広く利用してきたことはよく知られている。自然と親しみ、草木を暮らしに活かす工夫と、細工に器用な日本人の技(わざ)にも驚かされる。生態学者の著者は、長いあいだ日本人の暮らしを支えてきた多くの植物に注目して、その加工と利用の中に育まれた知恵と工夫の数々を本書で紹介している。
本書では、下の目次に示すように、植物の利用目的ごとに、食材、健康、道具、成分、家屋、行事の6つに区分して、植物と暮らしとの深い関わりがそれぞれに記述されている。本書を通じて、読者は日本人が自然に親しみ、植物を利用してきた 「植物と暮らしの文化」 を学ぶことができるだろう。
目次
はじめに
1 食材として
(1) 野生の果物
(2) 山菜から野菜へ
(3) 漬けもの
(4) 古代の穀物・マコモ
(5) 甘さを求めて―甘味植物
(6) 辛さを求めて―香辛植物
(7) 救荒植物
(8) 餅
2 健康のために
(1) お茶
(2) 風呂を楽しむ
(3) お灸とヨモギ
(4) 薬になる植物
(5) 不老長寿の薬草を求めて
3 日常の道具として
(1) 箸
(2) うちわと扇子
(3) 櫛
(4) 楊枝
(5) 桶と樽
(6) 縄とむしろ
(7) おひつとしゃもじ
(8) 下駄とぞうり
(9) ほうき
(10) 杖
4 成分を利用する
(1) 洗う―洗剤
(2) 貼りあわせる―糊料
(3) 染める―染料
(4) 塗る―漆
(5) 磨く―研磨剤
(6) 油を採る―油用植物
(7) 毒を使う―有毒植物
(8) 木炭
5 家の構成要素として
(1) 屋根
(2) ござと畳
(3) 柱と梁
(4) 襖と障子
(5) よしずとすだれ
(6) 生け垣
(7) 屋敷林
6 年中行事との関わり
(1) 正月
(2) 七草がゆ
(3) 節分と魔除け
(4) 桃の節句
(5) 桜と花見
(6) 端午の節句
(7) 夏を過ごす
(8) 七夕とお盆
(9) 秋の七草