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農業と環境 No.151 (2012年11月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

第12回遺伝子組換え生物のバイオセーフティに関する国際シンポジウム (9月 米国) 参加報告

現在、世界で生産されるトウモロコシの3分の1が遺伝子組換えトウモロコシであり、ダイズでは、その4分の3が遺伝子組換え作物で占められています。そして、食料自給率が39%である日本は、その食料の半分以上を海外で生産された作物に依存しています。とくに飼料や加工用原料は、遺伝子組換え作物を大規模に栽培する国から日本に輸入され、われわれも日常の食生活の中で、食肉や油などのかたちで、間接的に遺伝子組換え作物を食べています。

遺伝子組換え生物のバイオセーフティ(生物学的安全性)に関する国際シンポジウム (International Symposium on the Biosafety of Genetically Modified Organisms、ISBGMO) は、そのような遺伝子組換え作物や動物の安全性をどのように評価するのか、安全に管理するためにどのような規則を作るのかなどについて国際的に議論する唯一のシンポジウムであり、1990年から2年に一度開催されています。

風景写真

写真1 会場のホテルから見たゲートウェイアーチとミシシッピ川

今回は、大規模に遺伝子組換え作物を栽培する地元アメリカや、世界第2位と第3位の栽培大国ブラジルとアルゼンチンを含む南アメリカ、これからその栽培が本格化されるであろうアジアやアフリカの国々、そして遺伝子組換え作物と組換えでない作物の共存政策が進んでいるヨーロッパの国々など、合わせて55か国、475人が、アメリカ合衆国ミズーリ州のミシシッピ川のほとりにあるセントルイスに集いました(写真1)。

このシンポジウムでは、「農業、健康、そして環境の必要性の変化に対応したバイオテクノロジーの安全性を考える」 というテーマが掲げられ、その焦点は、遺伝子組換え生物の環境リスク評価にありました。遺伝子組換え生物のリスク評価においても、一般的に確立されている 「リスク = ハザード × 暴露」 が用いられますが、遺伝子組換え生物のハザード(明確な害)とは何か、暴露(その害が生じる確率)をどのように定義するかは大変難しい問題です。なぜなら、何をハザードから守り、暴露量をどのように評価するかは、その国に自生する種や自然環境だけでなく、その国の農業や産業の形態、遵守すべき法律等の、経済的、政治的な要素を考慮しなくてはならないからです。

会場のようす(写真)

写真2 シンポジウム開会式のようす

研究者はもちろん、EUの機関、各国政府の農業関係の行政担当者も多く参加しているところが、このシンポジウムのユニークかつ重要な点であり、最新の遺伝子組換え生物のリスク評価手法やその問題点について、自国の状況を念頭に置きつつ、国際間での共通した理解、認識を持つことが会議の一つの目的となっています。今回のシンポジウムでは、現在確立されている「遺伝子組換え生物の環境リスク評価」をより掘り下げて、「搬送中にこぼれ落ちた遺伝子組換え作物種子に由来する個体群による影響を想定した低い暴露の場合はどのように考えるのか」、「発展途上国では、環境リスク評価をこれからどのように使っていくべきか」などのセッションがもうけられました(写真2)。

また、EUからは、遺伝子組換え技術は使用するが最終生産物に導入遺伝子の痕跡が残らない、新しい育種技術に関する報告があり、従来の遺伝子組換え手法を越えた技術の開発が進み、技術開発のスピードと制度を整備するスピードとの間でのギャップが生じつつあることを強く感じました。

農業環境技術研究所からは、吉村と松尾の2名が参加し、吉村は、ダイズがほ場外に逸出(いっしゅつ)して定着する可能性を検討するため「石豆」と呼ばれる吸水しないダイズ種子の越冬を調査した生態学的な研究について、松尾は、日本で野生化したナタネ類の生育地とそこでの雑草管理との関係に関する生態学的な研究について発表しました。環境リスク評価の中では、研究者はその閾値(いきち)を決めるための科学的な知見を提出する役割を担っています。上記の研究も日本において環境リスク評価を行うための重要な知見と考えています。

また、郊外のトウモロコシ畑を見る機会がありました。収穫前でしたが、草丈が1m程度しかなく、過去56年で最悪といわれる今年の夏の干ばつが、どれほどひどいものであったかがわかります。収穫をあきらめた農家も多いそうで、トウモロコシを原料とする食材の今後の値上がりが気になるところです。

セントルイスは、フランス領であったミシシッピ川以西の地域を大統領トーマス・ジェファーソンが買いとった19世紀初頭、野心をもった人々が、西部へ旅立つ玄関口として繁栄しました(その象徴がゲートウェイアーチです)。その後1950年代に一帯の商業経済の中枢として栄えましたが、市街地の老朽化と産業の不振により人口の流出が始まり、衰退してしまいました。

(写真)

写真3 ブッシュ・スタジアムに急ぐカージナルスファンたち

現在は、昨年のワールドシリーズで優勝したカージナルスの本拠地、また、ビールのバドワイザーで有名なアンハイザー・ブッシュ社、世界的な遺伝子組換え種子メーカーであるモンサント社などがあり、ここ数年は、市勢を盛り返しているそうです。会場となったホテルの近くに、カージナルスのホームグラウンドであるブッシュ・スタジアムがあり、赤いユニフォームや帽子をかぶり、陽気に野球を観戦しに行く若者たちや家族連れを見かけました。彼らは、この町の盛衰などは関係なく、自由の国アメリカらしく、現在を十分に楽しんでいているようでした(写真3)。ウェブ上の情報では、全米有数の犯罪都市とあったため、渡航前は危ないイメージがありましたが、参加した地元の研究者に聞くと市北部などの荒廃したスラムがその犯罪数を増加させているだけで、そのような場所に立ち入らなければ安全だとのことでした。空港からのメトロも整備され、有名大学、植物園、動物園、多くの博物館や研究所もあり、1900年代の若きアメリカを思い出させてくれる近代的でアカデミックな町という印象でした。

次回の 「第13回遺伝子組換え生物のバイオセーフティに関する国際シンポジウム」 は、2014年南アフリカで開催される予定です。

(生物多様性研究領域 吉村泰幸・松尾和人)

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