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農業と環境 No.154 (2013年2月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

論文の紹介: 21世紀COEプログラム「衛星生態学創生拠点」の目指すところ

秋山 侃・児島利治・石原光則
システム農学 24(2), 137-142 (2008)

この論文は、岐阜大学が実施した 21世紀COEプロジェクト「衛星生態学創生拠点」 に関する総説です。

衛星生態学という言葉は著者の秋山氏が新たに作ったもので、一般になじみのある言葉ではないと思います。しかしながら、衛星画像を用いて農業・環境・生態系に関する調査や研究を行っている研究者・技術者にとって、この言葉に象徴される理念や考え方には学ぶべきものが多いと考えます。

ここからは、論文中でキーとなる文を引用します。

「衛星画像情報を生態学に注入して新しい学問体系を創生するという機運は60年代から芽生えていた。岐阜大では流域圏科学研究センターを作り、流域を対象として研究を行っている。流域圏には、森林生態系、里山生態系、農業生態系、湖沼生態系、都市生態系などが複雑に入り組み、各系間では水や物質のやりとりが絶えず行われている。このような系をまたがる物質循環の軌跡を人工衛星の情報によって捉えようというのが衛星生態学である。」

岐阜大学では衛星生態学のフレームワークとして、リモートセンシング解析、生態プロセス観測、気象・モデリング評価の3つの研究グループが作られ、互いに連携して研究を進めました。「リモートセンシング解析チームは生態系や植生の空間分布とその時間的変遷の解析や、葉面積など生態系構成要素の機能計測を目指す、生態プロセス観測チームは植生の構造と機能、環境応答機構等を解析し、炭素や水など物質の循環を観測する。その2つをつなぐのが気象モデリング評価チームで数値モデルなどにより物質循環動態や環境変動を予測する。したがって、衛星生態学は生態学、リモートセンシング、数学モデルの連携と、これらを支える植物生理学、画像解析学、気象学など多くの学際分野の融合の上に成り立つものである。」

著者は論文の最後を、「衛星リモートセンシングを、生態系機能を説明する道具に終わらせたくないと思っている。宇宙から生態系を眺めることによって、地上から見たものとは違う節理や秩序がそこに見えるのではないか、それが真の意味での衛星生態学ではないかと思っている。」 と締めくくっています。

本論文の著者である秋山氏は農業環境技術研究所のもと職員であり、掲載雑誌を発行しているシステム農学会の会長も務めた方です。現在の農業環境技術研究所には、私の所属する 生態系計測研究領域 が存在し、衛星画像を用いたリモートセンシング技術を、農業・生態系の観測や環境研究に役立てる研究を行っています。農業環境技術研究所には、私のようなリモートセンシングを専門に研究している者、農業気象に関わる研究をしている者、生態に関わる研究を行っている者、物質循環に関する研究を行っている者など、この論文に挙げられているすべての分野の研究者がそろっています。いや、それ以上のさまざまな分野の研究者がそろっています。この衛星生態学の考え方を踏まえ、さまざまな分野の研究者が連携して、さまざまな系をまたがって移動するものを捉えながら、農業環境研究をより深めていくことが求められています。

なお、秋山氏は平成18年11月に農業環境技術研究所で開催された 平成18年度革新的農業技術習得研修 「高度先進技術研修」 農業環境の情報把握と管理のためのリモートセンシング・地理情報システムの利用技術 において「農業生態系研究におけるリモートセンシング利用の概論 (PDF)」と題した講義を行い、衛星生態学についても触れています。

石塚 直樹 (生態系計測研究領域)

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