前の記事 | 目次 | 研究所 | 次の記事 2000年5月からの訪問者数(画像)
農業と環境 No.155 (2013年3月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

新しい低コスト土壌消毒法 ―低濃度エタノールを用いて―
(日本農民新聞連載「明日の元気な農業への注目の技術」より)

トマト、ピーマン、ホウレンソウ、メロン、イチゴなどに代表される園芸農業では、連作による様々な土壌病害虫が発生し、全く収穫できなくなるなど、大きな問題となっています。以前は、ウイルス病から雑草まで極めて高い効果の得られる臭化メチルがありましたが、オゾン層を破壊するため、国際的な取り決めにより一部の例外を除き使用が禁止されています。現在は、クロルピクリン、D−D、ダゾメットなどの土壌くん蒸剤が多用されています。しかし、これらの薬剤もガス化して周囲へ拡散するなど健康影響が懸念され、欧米などでは大変厳しい規制が行われています。

そこで、新しい土壌消毒方法や土壌消毒用資材を探索する中で、エタノールに注目しました。一般的な医療用消毒剤のエタノール濃度は80%前後で、この濃度で最も高い消毒効果が得られます。もし同様の効果をねらい、消毒用エタノールを農地に処理すると、莫大な量と費用が必要です。我々が開発した土壌消毒法で処理するエタノール濃度は高くても1%程度で、希釈したエタノール水溶液を農地に十分に染み込ませて湿潤状態にし、空気を遮断するために、土壌表面を農業用ポリエチレンシート (農ポリ) で2週間程度被覆するだけです。この消毒法によって、作物への病原性を示す細菌、糸状菌 (カビ)、線虫、土壌害虫や雑草の発生を抑制することができます。

低エタノールによる土壌消毒で効果の得られている試験対象例: /作物−対象病害(病原)//トマト−萎凋病/イチゴ−萎黄病/キュウリ−ネコブセンチュウ,ホモプシス/ダイコン−ネグサレセンチュウ/ホウレンソウ−萎凋病/カーネーション−萎凋細菌病/:(表)

ではなぜ、直接の消毒効果の得られないこのような低い濃度のエタノールによって、消毒効果が得られるのでしょうか。効果のメカニズムについて、少しずつ分かってきました。

畑から採取した土を滅菌したものと、滅菌をしない生土に分け、それぞれに病原性フザリウムを接種し、低濃度のエタノールで土壌消毒すると、病原性フザリウムは、生土では検出されませんでしたが、滅菌土壌では密度に変化がありませんでした。このことから、土壌微生物が土壌消毒効果へ大きな働きをしていることが分かります。詳しく調べると、低濃度のエタノール水溶液を処理すると、ある種の土壌微生物が活発化し、酸素を消費して土壌は急激に還元状態となることが分かりました。また、還元化が進むことで、エタノールの代謝から見込まれる以上の酢酸や酪酸などの有機酸が生成され、土壌中の鉄やマンガンなどが、2価鉄や2価マンガンとなり土壌水中に遊離します。作物へ病原性を示す土壌微生物は、酸化状態から還元状態への急激な環境変化や、有機酸や遊離金属イオンに弱く、これらが土壌消毒効果の要因となります。エタノールは、土壌中では数日間で分解、消失し、環境残留性は極めて小さく、生成した遊離金属イオンも土壌消毒終了後、被覆資材を撤去することで容易に元の状態に戻ります。

土壌還元消毒法には、フスマや米ヌカを用いた方法がありますが、フスマや米ヌカを撒いた後、均一に土壌混和する必要がありました。エタノールの場合には希釈も容易で、既存の液肥混入器と散水チューブを用いた連続希釈処理による労力軽減化が可能で、深層土壌での効果も得られるなどの利点があります。また、この方法では、消毒後も土壌微生物相がある程度維持されるため、処理後に病原性微生物を接種しても発病を抑制する効果があることも分かりました。本土壌消毒法はこのように優れた面がありますが、低温期には効果が不安定になるなどの不得意な面があることも分かってきましたので、従来の土壌くん蒸剤の使用が難しい場面、例えば住宅や公共施設と隣接した農地で土壌消毒をしなければならない場面などで、互いに補完できると考えています。

この成果は、農水省の予算で都道府県と共同して研究に取り組んできたものであり、現在、来年の実用化を目指して、マニュアルの作成と、共同研究機関による 「土壌消毒用エタノール資材」 の発売に向けた準備を進めています。ご期待下さい。

小原裕三(有機化学物質研究領域)

農業環境技術研究所は、農業関係の読者向けに技術を紹介する記事 「明日の元気な農業へ注目の技術」 を、18回にわたって日本農民新聞に連載しました。上の記事は、平成23年11月25日の掲載記事を日本農民新聞社の許可を得て転載したものです。

もっと知りたい方は、以下の関連情報をご覧ください。

前の記事 ページの先頭へ 次の記事