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農業と環境 No.156 (2013年4月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

生物多様性及び生態系サービスに関する政府間プラットフォーム(IPBES)第1回総会(1月 ドイツ) 参加報告

2013年1月21日から26日にかけて、ドイツのボンで、IPBES (Intergovernmental Science-Policy Platform on Biodiversity and Ecosystem Services: 生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム) の第1回総会が開催されました。日本からは、外務省、経済産業省、環境省、農林水産省から代表者が出席し、農環研からは、安田 生物多様性研究領域長と筆者(西田)が随行員として参加しました。

IPBES は、生物多様性と生態系サービスに関する現状と動向を科学的に評価し、その結果を政策担当者に提供することにより、科学と政策をつなげることを目的としており、その趣旨に賛同した国や国連機関の協力によって成り立っています。活動の柱として、生物多様性と生態系サービスに関する 「知見の生成」、「科学的評価」、「政策立案の支援」 および、それらを実行するための 「能力の開発」 の4つを掲げ、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が気候変動問題に関して学術的見地から重要な役割を担っているように、生態系サービスの問題に関して同様の役割を果たすことをめざしています。

IPBES の設立に関しては、2008年以降、5回の国際的な会合が持たれ、2012年4月に行われたパナマの会合で正式に設立することが決まりました。今回はその決定を受けての記念すべき第1回の総会となります。

この総会には、105の国、10を超える国際機関や地域連合およびNPOなどからの参加があり、6日間にわたって議論が行われました。

会議場のようす(IPBES第1回総会)(写真)

全体会合が行われた会議場のようす。会議の公用語は国連にならい英語、フランス語、スペイン語、ロシア語、中国語。この5つの言語については同時通訳が利用できる。

サイドイベントのようす(IPBES第1回総会)(写真)

IPBES の正式な会合の合間に、各国政府や NPO 等が主催するサイドイベントが行われた。写真は、環境省が UNESCO との共催で行った IPBES の概念的枠組みに関するサイドイベントのようす。

ホテルから会議場までの雪景色(IPBES第1回総会)(写真)

宿泊したホテルから会議場に向かう。ボンでもこのような雪景色は珍しいとのこと。(写真はいずれも安田生物多様性研究領域長提供)

IPBES は、運営を行う理事会と、活動の科学的・技術的機能を担う多分野専門家パネル( MEP: Multidisciplinary Expert Panel)、それから参加国の政府代表者とで構成されます。最終的な意志の決定は、全参加国が集まる総会で行いますが、理事会と MEP は IPBES の具体的な活動を提案したり、方向性を示したりという核となる役割を担います。

理事会も MEP も国連の5つの地域区分 (アフリカ、アジア、東ヨーロッパ、ラテンアメリカ・カリブ海、西ヨーロッパ・その他) をもとに選出されました。理事会は各地域から2名で合計10名、MEP は各地域から5名で合計25名が選出されることになっていましたが、各地域とも定員を超える立候補者があり、決定するまでにはかなり時間がかかりました。地域内での会合や、全体会、さらに関係者だけの会合を経た後、理事会の議長には、国連ミレニアム生態系評価で共同議長を務めたマレーシアのザクリ氏が就任しました。また、MEP メンバーの第1期2年間については、アジア地域では前期・後期を違う国が分担することになりました。日本は中国と韓国からなるサブグループに属し、理事会のメンバーを出した韓国を除く中国と日本で2年間を折半することになりました。中国との話し合いを重ね、前期は中国の傅伯杰氏 (中国科学院) が、後期は日本の白山義久氏 (独立行政法人 海洋研究開発機構) が努めることになりました。

このほか、第1回総会の主な議題として、事務局の体制や、手続き規則、初期作業の計画策定手続き、2013年度予算などがあり、ほぼ合意に達し、いよいよ本格的な活動に向けて準備が整いました。

私は、これまで専門分野の国際学会に出席したことはありましたが、このような政府の代表によって構成される国際会議に出席するのは初めてでした。出席者は、6日間にわたって、文字通り朝から晩まで話し合いを続けており、そのエネルギッシュな活動ぶりには驚かされました。自然科学の世界では、まずデータありきで、その解釈を巡って論争することはあってもそれは実験による証明でしか解決しません。そのため、このように話し合いによって物事が形作られ、動き出すさまは非常に新鮮でした。とくに世界各国から集まった、考え方もバックグランドも違うおおぜいの人々が、共通の目的に向かって、しかし独自性を保ちつつ合意していくようすは壮観でした。このような場面に立ち会えたことは、とても貴重な経験でした。

また、総会に参加するまでは、IPBES は 「生物多様性を保全するために科学者と政策関係者をつなぐ活動」 と考えていましたが、実際には、「生物多様性」 を支える基盤となる 「生態系」 そのものを対象に、自然科学的な面と社会科学的な面を合わせて包括的に評価して、「生態系から人間が持続的に恩恵を受けるには何が必要か」 を示していく活動だと理解しました。このような総合的で、かつさまざまな価値観や知識体系を持つ多くの人々がかかわる活動がどのように展開していくかは非常に興味のあるところです。

さらに、IPBES の核となる理事会や MEP のメンバーは、それぞれの研究分野で大きな影響力を持つ研究者が主体となっており、活動が本格化すれば、各研究分野に対する IPBES の影響も大きくなると考えられます。自分の研究の方向性を考える上でも、IPBES の動向は無視できないとの感想を持ちました。

現在、IPBES では、本格的な活動を開始するための準備を進めており、概念的枠組みや評価手法、私企業等も含む関係者への参加要請等について意見の集約等が行われています ( http://www.ipbes.net/ )。日本語の資料がないのは残念ですが、興味のある方は、ぜひアクセスしてみて下さい。

西田智子 (生物多様性研究領域)

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