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農業と環境 No.156 (2013年4月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

カドミウム汚染からイネを守る
(日本農民新聞連載「明日の元気な農業への注目の技術」より)

重金属の一種であるカドミウムは、自然界に広く分布し、ほとんどの農作物は微量のカドミウムを含みます。しかし、カドミウム濃度の高い食品を長年にわたり摂取すると、腎臓の機能などに悪影響を及ぼす可能性があります。平成20年に食品の健康影響評価が行われ、コメに含まれるカドミウムの基準値が今年2月末に「1.0 mg/kg 未満」から「0.4 mg/kg 以下」と厳しくなりました。日本人のカドミウム摂取量の半分近くを占めるコメのカドミウム濃度を減らすことが求められています。

コメのカドミウム濃度を減らすために、(1)非汚染土壌を上乗せする等の客土、(2)水田の水管理 (穂が出る時期に水田に水を張ったままにしておくこと) や石灰質肥料施用などの対策が取り組まれてきました。しかし、客土はコストが高い上、非汚染土壌を確保するため山などを取り崩す必要があります。また、土壌中のカドミウム濃度が高いと、水管理によってコメのカドミウム濃度が十分に下がらない場合があります。

ここでは、独立行政法人農業環境技術研究所が取り組んでいる新たな対策方法、―カドミウム低吸収品種、ファイトリメディエーション、土壌洗浄― を紹介します。

低吸収品種

世界には様々なイネ品種が存在します。アジアの栽培イネは Oryza Sativa 種に属し、さらに生態型の違いからジャポニカとインディカに分類されます。我々が日頃食べている 「コシヒカリ」 や 「あきたこまち」 等のジャポニカ米は、概してインディカ米に比べてカドミウム濃度が低くなります。このように、一口にイネといっても品種によってカドミウムの吸収は大きく異なります。このため、カドミウム濃度が充分に低い品種を育成できれば、単独で、または湛水管理等の低減技術と組み合わせることにより、広い地域に適用可能な、低コストで環境負荷が少ない極めて有用なカドミウム低減技術になると期待されます。農環研では、コメのカドミウム濃度を制御する遺伝子座の同定に成功して、カドミウム吸収の低いイネを育成しており、新たな有望株が得られつつあります。

ファイトリメディエーション

植物を使って汚染土壌を浄化する技術をファイト(植物) リメディエーション(修復)といいます。農環研では、先に述べたインディカ米の中から、特に土壌からカドミウムをたくさん吸収するイネを見出し、カドミウム吸収を高める 「早期落水法(移植後最高分げつ期まで湛水、以後収穫時まで落水)」 という栽培と組み合わせた新たな方法を開発しました。この方法でイネを2〜3作栽培し、その都度地上部を持ち出すことで、土壌のカドミウム濃度は20〜40%低減します。その後、栽培した食用イネのコメのカドミウム濃度は、対照区と比べて40〜50%低減しました。この方法は、既存の農業機械で行えるため、10アール当り75万円程度の低コストで広範囲での実施が可能です。現在、気象条件や汚染程度の異なるさまざまな水田を対象に、農水省による実証事業が行われています。

土壌洗浄

洗浄法は汚染土壌に薬剤液を加え、泥水の状態でよくかき混ぜてカドミウムを土壌から薬剤液に抽出して除去する方法です。農環研は、塩化鉄を溶かした用水を薬剤液として用い、排水された薬剤液に含まれるカドミウムを現場に設置した処理装置で回収するオンサイト土壌洗浄法を新たに開発しました。本法により、客土より安く、土壌のカドミウム濃度を60〜80%、生産される玄米のカドミウム濃度を70〜90%低減することができます。現在、効果の持続性や洗浄後の転換畑作物への影響を調査しています。

塩化鉄を薬剤とした土壌洗浄の工程(1)薬剤施用:水田周りに波板をめぐらし、塩化鉄を溶かした水を入れる(写真)
(1) 薬剤施用

塩化鉄を薬剤とした土壌洗浄の工程(2)撹拌混合特殊なトラクタで水田内の代かきををして、土壌中のカドミウムを水中に溶かし出す(写真)
(2) 撹拌混合(カドミウムの抽出)

塩化鉄を薬剤とした土壌洗浄の工程(3)水田の水を処理装置に入れ、カドミウムを分離・回収する(写真)
(3) 排水処理

塩化鉄を薬剤とした土壌洗浄の工程(4)さらに水を水田に入れて撹拌し、カドミウムを回収する(写真)
(4) 水洗浄

塩化鉄を薬剤とした土壌洗浄の工程

畑作物にも国際基準があって今後日本でも基準値が作られる可能性があり、農作物のカドミウム対策はますます重要となっています。農環研では、成果をとりまとめて以下のサイトで公開しています。こちらもごらんください。
http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/techdoc/cadmium_control.pdf

牧野知之(土壌環境研究領域)

農業環境技術研究所は、農業関係の読者向けに技術を紹介する記事 「明日の元気な農業へ注目の技術」 を、18回にわたって日本農民新聞に連載しました。上の記事は、平成23年10月25日の掲載記事を日本農民新聞社の許可を得て転載したものです。

もっと知りたい方は、以下の関連情報をご覧ください。

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