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農業と環境 No.157 (2013年5月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

本の紹介 334: 統計学が最強の学問である −データ社会を生き抜くための武器と教養、西内 啓 著、 ダイヤモンド社(2013年1月) ISBN978-4-478-02221-4

世の中には小さなウソと大きなウソ、そして統計のウソがある。
(ベンジャミン・ディズレーリ, 1804-1881 )

さて、本書である。出版社からも分かるように、ビジネスに関わる人々向けに書かれた統計学の啓もう書である。多少くだけすぎた言い回しもあるが、統計学になじみのない人々にとっても、とっつきやすく構成されている。本のタイトルどおり、著者の統計学に関しての自信と意気込みがうかがえる。本書は、統計的素養、統計リテラシーがビジネスにとって必須であることを、一貫して訴えている。

著者は、公衆衛生学から統計学になじんだ若き生物統計家である。関心は生物現象にとどまらず、社会現象、経済現象にまで及ぶ。

第1章では、なぜ統計学が最強の学問なのかという問いに対して、統計学を使って 「どんな分野の議論においても、データを集めて分析することで最速で最善の答えを出すことができるから」 と明快に答えている。歴史的事実として、19世紀ロンドンで当時原因不明の疫病であったコレラの流行について統計学的に解明した疫学の父、ジョン・スノウの活躍をその一例として紹介している。また、いまなぜ統計学が花開いたのかについては、統計学と20世紀終わりから続くITの革命的な進歩との「結婚」により、「退屈だった紙とペンの統計学」 では体感できなかった最善の答えが容易に得られるようになったことが大きいとしている。

第2章では、情報コストを激減させるためには、ITによりビッグデータが容易に解析できる時代にあっても、サンプリング調査が有用であり、その正確性について、世界恐慌の際の統計学者の活躍を例に引いて、説得力をもって解説し、無定見に膨大なデータベースの整備に投資することをあざ笑い、戒めている。

第3章では第2章に続き、経験と勘に頼るのではなく、データを解析し、最善の答えを導くためには、適切な比較(ランダム化実験)を行うとともに、ただの集計ではなく、データの誤差とp値について明らかにすることを意識するという、現代統計学の父、ロナルド・A・フィッシャーがローザムステッド農業試験場で確立した統計学の基本的考え方の重要性について分かりやすく事例をあげながら紹介している。

第4章では、倫理的にも予算的にも実験が許されるものである限り、ランダム化実験、すなわち実験計画法がいかに革命的で、科学を科学たらしめたかばかりか、社会・経済現象の因果関係の解析に活用できる汎用性を統計学に与えたかを解説している。

第5章では、ランダム化実験ができない事象についても統計学が無力ではないことを、ケースコントロール研究及び広義の回帰分析(一般化線形モデル)を事例に出しながら力説する。一般化線形モデルというと素人から見るとしり込みするが、学生時代に習う差の検定、分散分析、回帰分析、重回帰分析、カイ二乗検定、ロジスティック回帰が一枚の表に簡単に俯瞰(ふかん)的にまとめられ、じつは基本的に同じ手法のものであることは目から鱗である。

第6章は、やや難解であり読み飛ばしても良いが、IQを生み出した心理統計学、マーケティングの現場で生み出されたデータマイニング、言葉を分析するテキストマイニング、計量経済学、ベイズ統計といった、統計学の応用・派生学問の最先端をかいま見ることができる。とくにベイズ派と頻度論派の確率計算に関する考え方の違いは興味深い。

終章では、「巨人の肩に立つ」(アイザック・ニュートン) ためには、先人たちの知恵に学び、その上に立脚する必要があること、これができれば自分だけの頭を絞るよりはるかに先を効率的に見通すことができると、著者は述べている。その最善の答えを探すための信頼すべきエビデンス(科学的根拠)のヒエラルキー(階層性)について最後に紹介し、系統的レビューとメタアナリシスがピラミッドの頂点であると明快に整理している。

著者が指摘するように、日本全体で統計リテラシーが不足している。統計リテラシーを皆が身につけなければ、ビジネスに限らず、社会・政治問題についても経験と勘だけの不毛の議論が尽きることはないだろう。自然科学もまた例外ではない。

「統計」にはうそがあるかもしれないが、「統計学」が最強であるという著者の主張は理解できる。一読をお薦めしたい好著である。

目次

第1章 なぜ統計学が最強の学問なのか?

第2章 サンプリングが情報コストを激減させる

第3章 誤差と因果関係が統計学のキモである

第4章 「ランダム化」という最強の武器

第5章 ランダム化ができなかったらどうするか?

第6章 統計家たちの仁義なき戦い

終章 巨人の肩に立つ方法

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