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農業と環境 No.158 (2013年6月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

農地の放射能汚染の実態を知る
土壌の放射性セシウム濃度分布図の作成
(日本農民新聞連載「明日の元気な農業への注目の技術」より)

放射性セシウム吸収抑制や除染のために

東京電力福島第一原子力発電所の事故により、放射性セシウムなどの放射性物質が環境に放出され、汚染された農地に栽培される作物の放射性物質濃度をどのように下げるのか、また除染の必要性の有無やどのような方法で行うかなどを判断するためには、農地土壌がどの程度放射性物質に汚染されているかを知ることが欠かせません。

このため、(独)農業環境技術研究所(農環研)では、福島県及びその周辺の岩手県から静岡県までの15都県を対象に、各都県の農業試験研究機関の協力を得て農地土壌を採取して 「農地土壌の放射性物質濃度分布図」 を作成し、2012年3月23日に農林水産省を通じて公表しました。

農地土壌の放射性セシウム濃度分布図:放射性セシウム濃度が5000ベクレル/キログラム以上の農地が福島第一原発から北西方向に広がり、福島県中通りから栃木県中部および宮城県南部まで1000ベクレル/キログラム以上の農地が広がっている。(図)

農地土壌の放射性セシウム濃度分布図

農地土壌濃度分布図の作り方

調査地点は岩手県から静岡県までの約 3,420 地点の調査ほ場内の5ヵ所で地表面から深さ約15cmまでの土壌を採取し、ゲルマニウム半導体検出器を用いてCs-134とCs-137の濃度を測定しました。測定結果については、測定地点、Cs-134およびCs-137濃度とその合計である放射性セシウム濃度を、放射能の減衰を考慮し、2011年11月5日を基準日として一覧表にして示しました。

また、調査地点の放射性セシウム濃度は点のデータであり、点と点の間の濃度を推定し、面のデータとして表示する必要があります。面のデータとしては文部科学省がヘリコプターで測定した空間線量率のデータがありました。このため、農地土壌の放射性セシウム濃度と農地上の空間線量率との間の関係を土壌の種類や地目で10の類型に分けて求め、空間線量率のデータから農地土壌の放射性セシウム濃度を推計し、調査地点以外の農地土壌の放射性セシウム濃度を分布図に表示しました。農地の分布は、農環研が2010年に作成・公開した2001年の農地の分布状況を反映した農地土壌図から把握しました。

5,000 Bq/kg以上の農地は約 8,900 ha

15都県の放射性セシウム濃度の区分ごとの分布(図)をみると、福島第一原発から北西方向に 5,000 Bq/kgを超えるような高い濃度の地帯があり、さらに 1,000 Bq/kgを超える農地が福島県中通りから栃木県の中部および宮城県の南部まで広がっていることが分かります。また、15都県全体の分布図だけでなく、都県別の分布図や福島県については市町村別の分布図を作成しました。このように、より詳細な分布を示すことにより、今後の営農指導や除染作業に役立つことが期待されます。

また、分布図のデータを集計した結果、除染の一つの指標である土壌の放射性セシウム濃度 5,000 Bq/kgを超える農地土壌の面積は、約 8,900 haと推定されました。

さらに、農地上1mの高さの空間線量率と農地土壌中の放射性セシウム濃度との間には、その土質や農地の状態によって一定の相関があることが分かりました。これにより、放射線量計によって簡便に測定できる空間線量率から、農地土壌中の放射性セシウムのおおよその濃度を算定する方法を提示しました。ある程度の誤差はありますが、営農現場で濃度を把握するときに役立つと考えられます。

今回作成した各県 (福島県においては市町村) ごとの農地土壌放射性物質濃度調査地点図、農地土壌放射性物質濃度分布図、実測値等分析値データ、放射性セシウム濃度の簡易算定法は、次のURLに掲載しています。http://www.s.affrc.go.jp/docs/map/240323.htm

今後は、現場での営農や除染への活用を進めていくとともに、放射能濃度の推移を把握し、毎年分布図を更新するための調査を進めることにしています。

研究コーディネータ 谷山 一郎

農業環境技術研究所は、農業関係の読者向けに技術を紹介する記事 「明日の元気な農業へ注目の技術」 を、18回にわたって日本農民新聞に連載しました。上の記事は、平成24年(2012年)4月25日の掲載記事を日本農民新聞社の許可を得て転載したものです。なお、新聞に掲載された図はモノクロでしたが、ここではカラーの原図を掲載します。

もっと知りたい方は、以下の関連情報をご覧ください。

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