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農業と環境 No.159 (2013年7月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

カワヒバリガイ問題 水の利用と外来種の困った関係 (日本農民新聞連載「明日の元気な農業への注目の技術」より)

外来生物の取り扱いを規制する “外来生物法”

外来生物とは、もともとその地域にいなかった生物が、人間の活動によって他の地域から侵入してきたものを指します。外来生物は、その場所にもとから住んでいる在来生物を補食したり、生息場所を奪うなどの影響を与えることがあり、時にはその種が絶滅する原因になったりします。また、農業害虫になるなど、人間の行う経済活動や生活環境へ大きな被害をもたらすこともあります。このような外来生物による生態系や人の生活への悪影響を防止するため、2004年に 「外来生物法」 が制定されました。これは、特に侵入先の生態系や人の生活への悪影響が著しい外来生物を「特定外来生物」として指定し、その輸入や飼育、運搬などの行為を規制する法律です。

利水施設の壁面に発生した大量のカワヒバリガイ(写真)

施設に発生したカワヒバリガイ

分布拡大する特定外来生物:カワヒバリガイ

この特定外来生物に指定されているカワヒバリガイは、中国・朝鮮半島を原産とする淡水性の二枚貝で、近年関東地方での分布拡大が話題になっています。この貝は海辺に住むムール貝の仲間で、足糸とよばれる糸で固い基質に付着し、しばしばコンクリートや岩、導水管などを覆い尽くしてしまいます。また、もともと住んでいた生物の生息地が失われたり、魚の大量死の原因となる吸虫の中間宿主になったりすることも知られており、侵入先の在来生物に影響を与えることが心配されています。

カワヒバリガイは国内では1990年に岐阜県の揖斐川で確認されたものが最も古く、2000年初頭までは木曽川水系と琵琶湖・淀川水系のみで生息が報告されていました。しかしその後、愛知県や静岡県、群馬県や茨城県などでも報告されるようになり、各地で利水施設の取水口やパイプを閉塞させたり、用水路で大量発生して悪臭を発生させたりするなどの被害が報告されています。

農業利水施設などに発生したカワヒバリガイへの対策は、主に付着した貝を物理的に取り除くことで行われています。この対策は侵入間もない時期に行うことが効果的ですが、密度が低いと見つからないことが多く、大量に発生するまで放置されがちです。カワヒバリガイを探す時には、(1) 岩やコンクリート、沈んでいるロープなどの比較的固い物の表面を探す、(2) 常に水に浸かっている場所を探す(乾燥すると死んでしまうため)といった点を注意すると発見しやすくなります。また、カワヒバリガイは春から秋にかけて繁殖を行うので、春先に貯水池などの岸から浮きを付けたロープなどを数メートル垂らしておくと、秋には新たな個体がロープに付着して侵入を確認できることがあります。

カワヒバリガイの分布拡大状況: 1990年 岐阜県揖斐川 − 木曽川、琵琶湖・淀川 − 2004年 愛知県矢作川、静岡県天竜川 − 2005年 群馬県大塩貯水池周辺、茨城県霞ヶ浦 − 2007年 宇連川、小貝川、利根川 − 2008年 江戸川(地図)

人の経済活動を通じて侵入・拡大

これまで行われた研究から、カワヒバリガイの侵入・拡大には人間の経済活動が深く関わっていることが明らかになっています。例えば、中国から輸入されたシジミの中にカワヒバリガイが混入していたことが以前から報告されており、これらの水産物に混じって国内に侵入したカワヒバリガイが野外で定着したと考えられています。また、いったん侵入が起こった後のカワヒバリガイは、河川だけでなく、様々な水利施設、たとえばパイプラインなどを経由して分布を拡大していることが明らかになっています。このことから、カワヒバリガイの拡大を防止するためには、カワヒバリガイの移動ルートを特定し、そのルートを通過するカワヒバリガイの動きを規制する取り組みが重要になります。しかし、外来生物法は意図しない移動(水産物に混入した移動や水の利用にともなう拡大など)が規制対象になっていないため、その動きを制限する効果は少ないのが実情です。

農業水路や貯水池は、カワヒバリガイによる施設被害が出る可能性があるだけでなく、その施設を経由して別の地域に新たな生息地をつくる経路になる可能性もあります。そういった可能性を少しでも減らすために、日頃から施設へのカワヒバリガイの侵入をチェックしていただきたいと思います。

生物多様性研究領域 伊藤健二

農業環境技術研究所は、農業関係の読者向けに技術を紹介する記事 「明日の元気な農業へ注目の技術」 を、18回にわたって日本農民新聞に連載しました。上の記事は、平成24年(2012年)9月15日の掲載記事を日本農民新聞社の許可を得て転載したものです。

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