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農業と環境 No.160 (2013年8月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

第19回 国際クモ学会 (6月 台湾) 参加報告

2013年6月23日から28日までの6日間、第19回国際クモ学会大会 (International Congress of Arachnology 2013) が台湾の墾丁 (Kenting) で開催されました。国際クモ学会はその名の通り、節足動物のクモ類を研究対象とする人々が集う国際的な会議で、3年に1度のペースで開催されます。私は、現在水田のクモ類に関する研究を行っており、その成果を発表するためこの大会に参加しました。

今回の開催地である墾丁は、台湾最南端にあたる恒春半島に位置し、国家公園を有する一大観光地としても有名です。高雄国際空港から墾丁まで、バスで2時間半ほどかかりますが、観光地ということもありバスの本数は多く、また深夜まで運行しているため、アクセスは悪くありませんでした。ただしバスの運転手には英語がまったく通じないため、私を含めて多くの大会参加者は行き先を教えるのに苦労しました。現地でバスを利用するときは事前に目的地を書いた紙を用意することをお勧めします。

オープニングセレモニーのようす(第19回国際クモ学会)(写真)

写真1 オープンセレモニーのようす

大会には、42か国から231人が参加し、講演はポスター発表が72題、口頭発表が136題ありました。会期中は毎朝、著名な研究者による基調講演が行われました。講演の演題は、「円網の進化」、「ハエトリグモ類の紫外線反射を利用した求愛シグナルの進化」、「クモの行動生態学におけるモデル生物としての有用性」、「複数の空間スケールにおけるクモ類の個体数決定の仕組み」など、内容は多岐にわたり、中には Science や PNAS といった一流学術誌に掲載された話題もあり、聞きごたえがありました。とくに Yeal Lubin さんの社会性クモ類に関する講演は、集団生活を行う特殊なクモを材料としながらも、生物の社会性が進化的にどのように生じ、どのように維持されるのかといった一般性の高い問題に、さまざまな角度から取り組んでおられ、たいへん興味深く感じました。

ポスター発表のようす(第19回国際クモ学会)(写真)

写真2 ポスター発表のようす

大会4日目にはエクスカーションが行われました。行き先は、水族館や自然公園などいくつかのオプションから選ぶことができましたが、貴重な動植物がみられるということで、私は自然公園 (Nan-jen lake ecological reserve park) 内の山道を歩くツアーに参加しました。高温多湿の気候に加えて道がぬかるんでいたため、思った以上にハードでしたが、湖が広がる山頂の風景はとてもすばらしいものでした。クモをはじめカエルやトカゲ、チョウやトンボなど、熱帯特有の珍しい生き物をみることができ、たいへん充実した内容となりました。自然公園内は本来、動植物の採集は禁止されていますが、今回は事前手続きを行うことで特別にクモの採集が許可されました。世界のクモ研究者が集結し、クモ採集に興じる姿もまた、珍しい光景として印象に残りました。

一般講演では、クモの分類・系統・生態を扱った基礎研究から、クモ類の天敵としての機能に注目した応用研究まで、幅広い話題が提供されました。全体的には基礎研究に関する話題が多く、クモの造網行動や糸の物理特性に関する話題、さらに求愛行動や雌雄のサイズ差に関する話題が目立ちました。目新しい話題としては、都市部におけるクモ類の多様性を調べた研究で、関連する話題は10題以上にも上り、近年発展しつつある都市生態学への関心の高さが伺えました。

クモ類の採集方法に関する発表も印象的で、これまで地表徘徊(はいかい)性のクモの採集方法としては、ピットフォールトラップ (コップを地面に埋めて、そこに落ちるクモを得る方法) が主流でしたが、この発表では、プラスチックコンテナに傾斜式の通路を付けたトラップの方が、ピットフォールトラップより多くの種類のクモを安定して採集できることが示されていました。クモ学会ならではのマニアックな内容ですが、実際に野外でクモの個体数調査を行う者としては大いに役立つ情報でした。

私(馬場)は Community Ecology and Pest Management (群集生態学と害虫管理) のセッションで、「The effects of landscape structure and agricultural practice on spider community in rice paddy fields of Japan」という題目で発表を行いました。アシナガグモ類やコモリグモ類は水田生態系における重要な害虫捕食者として知られていますが、これらのクモ類の個体数が農法や周囲の景観によってどのように影響を受けるのかを、GIS (地理情報システム) を用いた景観生態学的な手法によって明らかにしたことを発表しました。質疑の時間が短かったため、その場では十分な議論ができませんでしたが、コーヒーブレイクの時間に、発表を聞いてくださった方々からさまざまな質問や意見をいただき、結果として有意義な議論を行うことができました。

このほか農業関連の話題として、東南アジアのゴムプランテーションにおけるクモ類の多様性、土面被覆がクモに与える影響、殺虫剤の使用がクモの個体数に与える影響などさまざまな発表があり、農業分野における研究の動向を知ることができました。しかしながら、水田生態系を対象とした研究は少なく、水田におけるクモ類の動態を理解し、その天敵としての機能を活用するためには、まだまだ多くの知見の蓄積が必要だと感じました。

本大会ではクモという材料を通じて農地の研究をはじめさまざまな分野の研究を堪能(たんのう)することができ、たいへん良い刺激を受けました。次の大会は3年後の2016年に米国コロラド州のデンバーにて米国クモ学会と合同で開催されます。米国では農地のクモ類の研究が盛んで、著名な研究者の参加も期待されることから、より良い成果を挙げて次大会にも臨みたいと思いました。

Nan-jen lake 自然公園の風景(写真)

写真3 Nan-jen lake 自然公園

生物多様性研究領域 馬場友希

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