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農業と環境 No.174 (2014年10月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

第15回国際微生物生態学シンポジウム (ISME 15) (8月 韓国) 参加報告

2014年8月24日から29日まで、韓国・ソウルで開催された 第15回国際微生物生態学シンポジウム (15th International Symposium on Microbial Ecology, ISME15) に参加しました。

この国際学会は、微生物生態学分野で最大規模の国際研究集会であり、隔年に開催されます。毎回、土壌、海洋、動植物体内などさまざまな生態系の微生物の研究に取り組んでいる研究者が、世界各国から多数集まります。今回も約1,600名の参加があり、ポスター発表だけでも1,200題以上と盛況でした。筆者は過去に3回本学会に参加していますが、参加するたびに、新たな実験技術を取り入れた著しい研究の進展に驚かされます。遺伝子の解析技術や新たな顕微鏡観察技術をはじめ先進的な分析技術の開発によって、微生物の生態を詳細に解析することが可能になり、この学会を活性化し続けているという印象を受けました。

ISME はヨーロッパやアメリカ、オセアニアを中心に開催されてきました。今回の開催地はソウルということで、1989年に京都で開催されて以来、25年ぶりのアジア開催となりました。そのせいもあって、この学会への日本からの参加者は、韓国、米国についで多く、学会の成功に大きく貢献していました。また、若手研究者に授与されるポスター賞も日本人研究者が3名受賞され、日本の微生物生態研究の量と質の高さをうかがい知ることができました。

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写真 ポスター発表のようす(参加者と議論する多胡香奈子研究員)

筆者らは、カメムシに農薬抵抗性を与える細菌の生態についてポスター発表を行いました。従来、害虫の農薬抵抗性は、害虫自身の遺伝子の変化によって獲得されるといわれてきました。ところが筆者らは産総研と共同で、農薬を分解する細菌がカメムシの消化管に住み着くことによって、カメムシが農薬抵抗性を獲得するという新たな知見を見いだしました。今回の発表では、土壌に農薬を散布すると分解菌が増えて、その過程でカメムシに感染しやすい一群の分解菌が現れるということを報告しました。微生物が害虫に農薬抵抗性を与えるという現象は研究者の好奇心を刺激するようで、多くの方に関心を示していただき有益な議論ができました。

一方、筆者らが取り組んでいる、環境から微生物の遺伝子をまるごと抽出して解析するメタゲノム解析に関するセッションでは、遺伝子の断片情報で微生物の生き様にどこまで迫ることができるのか、そして膨大な遺伝子断片の情報をどのように微生物の生態と関連づけていけばよいのかといった講演が行われました。遺伝子の情報を読み解く技術(バイオインフォマティクス)から次の段階に移行しつつあり、そこでは統計学が解析の中心になると思われます。

農業の基盤は作物が生育する土壌にあるといえます。土壌の微生物は、温室効果ガスの発生や環境浄化など、人間活動、とくに農業と密接に関係する重要な役割を持っています。農耕地全体で微生物が果たす機能を明らかにして研究の成果を農業に活かすため、一区画の畑の数か所から採取した土壌を混合して、分析用のサンプル間のバラツキをなくすことが行われています。ところがこの方法だと、大きさがわずか数ミクロンの個々の微生物のすみかをかく乱して、微生物と微生物の関係を破壊してしまうことになります。そうすると微生物の本当の生き様をみることができなくなってしまいます。土壌微生物のセッションでは、この問題に関する講演が行われました。0.001 〜 0.5 グラムの土壌に生息する微生物の種類のバラツキを比較すると、より少量のサンプルほどサンプル間のバラツキが大きいことが報告されました。これは、微生物の本当のあリ様は、より小さなサンプルを使って研究する必要があることを示しており、今後の土壌微生物研究の大きな指針になると感じました。

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写真 ISME15 会場内(氷のモニュメント)

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写真 USBメモリー

学会の会場はソウルのカンナム(江南)地区にある大規模なイベント用施設 Coex Convention Center でした。カンナム地区は1988年のソウルオリンピックのときに整備された地区で、交通の便がよく、会場の規模や設備・施設も充実していました。また会場ではフリーの Wi-Fi (無線 LAN ) にアクセスでき、情報の収集や整理に便利な環境が提供されていました。長期間の学会でしたが、おかげで快適に勉強することができました。ただ、震災以後の弱冷房に慣れているせいか、冷房が効きすぎると感じた日本人は筆者だけではなかったようです。

多くの学会では冊子体の発表要旨集が参加者に配布されますが、今回の ISME では写真に示すようなチマチョゴリを着た人形タイプの USB メモリー要旨集が配布され、これを参加者は各自のパソコンで閲覧し、広い会場を興味のある講演を求めて右往左往していました。

次回の ISME はカナダのモントリオールで開催されます。

生物生態機能研究領域 早津 雅仁

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